銀座駅に誕生する吉岡徳仁のアート作品「光の結晶」
デザイン・ジャーナル 2020.10.08
ルイ・ヴィトンやカルテルの家具をはじめミラノデザインウィークでは新作家具が発表されるたびに注目を集め、パリ、オルセー美術館を例とする空間デザインも多数手がけるなど、世界的に活躍している吉岡徳仁さん。
アーティストとして美術館での個展も開催、作品も高く評価されています。その吉岡さんが新たに手がけた作品が、10月16日、東京メトロ銀座線、銀座駅に誕生します。場所は「B6」出口付近。今後20年以上という長い期間紹介されるパブリックアートです。
作品コンセプトのうえでも重要となるのが、今回の作品のために制作されたクリスタルガラスです。まずはその写真をご紹介しましょう。
作品のために制作された、美しく輝くクリスタルガラス。雪の結晶や蜂の巣など自然界に多く存在する六角形とされたところも興味深い。
Photos: Courtesy of Tokujin Yoshioka Design
オリンピック・パラリンピックの聖火リレートーチのデザインでも話題となっている吉岡さん。都内で現在目にできる作品のひとつが、国立新美術館の屋外で展示されている「吉岡徳仁 ガラスの茶室 – 光庵 」です。
この茶室をはじめ、彼が一貫して取り組んでいるのが「光」の表現。家具においても同様で、光学ガラスを用いたテーブルや椅子も実現されてきました。そのひとつ「Water Block」は、冒頭で触れたオルセー美術館でも常設展示となっています。
オルセー美術館の印象派の空間に展示されている「Water Block」。「透明でありながらも、光によって強いオーラを放つものをつくりたいと思ってきた」という吉岡さんによる、水や光そのものの彫刻とも言える作品。光が屈折し、強い存在感を示す。
2017年に資生堂ギャラリーで開催された個展での作品は、4000にも及ぶ虹の光線を放つ、プリズムの彫刻作品の発表となりました。光に包まれたギャラリーの空気が多くの人々を魅了していた様子を、私も鮮明に記憶しています。
「TOKUJIN YOSHIOKA _ SPECTRUM」2017年、資生堂ギャラリーでの個展風景。200個のクリスタルガラスによる彫刻作品から放たれる4000にも及ぶ虹の光線が空間を包んだ。
銀座では現在、GINZA SIXの中央吹き抜け部分でインスタレーション「Prismatic Cloud」も目にできます。こちらで用いられているのはプリズムロット。その数はなんと1万本だそう……!
「美しい自然のかたちそのものを模そうと考えたのではないんです」と、インスタレーションが完成した際に、吉岡さんは語ってくれました。「私たちの心がゆさぶられる『自然のエネルギー』そのものを表わしたかった」とも。まさに吉岡作品の醍醐味です。
GINXA SIXでの「Prismatic Cloud」。プリズムロッドを積層させた全長10mもの光の彫刻。館内を移動しながら目にしていると、雲を間近で目にしている気分に……。
常に気になる表現を見せてくれる吉岡さんが、今回、銀座で新たに見せてくれるパブリックアートの作品名は、「光の結晶 / Crystal of Light」
「光」について、現在発行されている資生堂の『花椿』誌(2020年夏秋号)でインタビューした際の本人のことばが印象的だったので、FIGARO.jpを読んでくださっている皆さんにもぜひお伝えしたいと思いました。
「文化を育んできた銀座は、歴史的なものと新しいものが融合する特別な街。光り輝く街という印象を持っています。また光そのものは、生命そのものや未来に向けたエネルギーを象徴的に示す存在でもあると思います。そうした光を感じとっていただけるもの、わくわくしてもらえる作品にしたいと考えました」
「自然界の光と同様に瞬間瞬間に変化し、留まることのない光の作品にしたかった。100年が経った後に色あせない表現とはどのようなものであるのかも、今回考えたことです。大切なのは、人々の存在が中央にあるということではないだろうかと」
吉岡徳仁さん。「平和への願いを込めた結晶」という「光の結晶」。一辺およそ6cmの六角形のクリスタルガラスが636個組み合わせられることで、縦約1.65m×横約3.5mの大作となる。
作品完成イメージ。クリスタルガラス内部に傾斜が設けられることで作品周囲の光が反射し、全体が煌めきに包まれる。
作品を体感する一人ひとりの感情や記憶が結びつくことで、そのひとの心の奥深くに響くものとなること。それこそが吉岡さんがいつも大切にしている表現です。
「自然の力にこそ時代を超える美しさがある」と考え、それ自体は定まった形をもたない非物質となる「光」の研究を重ね続けているアーティスト。「地球上の光が、全体として大きな輝きとなる。世界を光で表現する」との想いも込められた最新作完成を、楽しみに待ちましょう。
公開日:2020年 10月16日(金)
設置場所:東京メトロ銀座駅 B6出口付近
協賛:株式会社資生堂
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami