メゾン・エ・オブジェ・パリ展覧会レポート メゾン・エ・オブジェ・パリ、注目すべき日本の新鋭クリエイター。

『デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展』では、新鋭クリエイターの紹介にも注目ください。

パリで開催されている『メゾン・エ・オブジェ』では、「ライジング・タレント・アワード」として、毎年ひとつの国にフォーカス、選考委員によって選出された皆さんが紹介されています。そして今年の紹介国は、日本! こちらもパリのメゾン・エ・オブジェの開催に先がけるかたちで、現在、日本橋髙島屋本館で展示されています。

写真10.jpg

フランソワ・ルブラン・ディ・シシリアのキュレーション。

今回の選考委員長は建築家の隈 研吾さん。木田隆子さん、田川欣哉さん、長坂 常さん、横川正紀さん、横山いくこさんとともに、私も選出にご一緒しました。アワード受賞者の6名、岩元航大さん、狩野佑真さん、坂下 麦さん、氷室友里さん、三澤 遥さん、簑島さとみさんを紹介しましょう。

FM2-2.jpg

2021年12月にアンスティチュ・フランセ東京で行われた記者会見で。「2022年 ライジング・タレント・アワード 日本」に選出されたみなさん。左から: 三澤 遥さん、氷室友里さん、坂下 麦さん、岩元航大さん、狩野佑真さん。photo: Noriko Kawakami


---fadeinpager---

身の回りの素材にも目を向け、独自の制作プロセスで魅力的な品々を生み出している岩元航大さん。「PVC HANDBLOWING PROJECT」はホームセンターでも手に入る一般的な工業素材の塩ビ管を用いた花器。塩ビ管を熱で柔らかくしたうえで、昔ながらの型吹きガラスさながら空気を送り込む手法で形づくられます。

ほかに、着色した薄い木の板を積み重ね、表層をパリパリと剥ぎ取った木による家具「PARI PARI」も。「人の手で完全にコントロールすることのできないランダムなパターンは、偶然にもたらされる美です」と岩元さん。

FM2-4.jpg

岩元航大「PVC HANDBLOWING PROJECT」。© kodai

FM2=5.jpg

岩元航大「PARI PARI」。© kodai

---fadeinpager---

狩野佑真さんも素材に始まる取り組みを展開しています。「Rust Harvest」は海に面した造船所にアトリエを設けていた際、周囲の金属に生じる錆が美しいと感じたことからスタートしたプロジェクト。狩野さんはこう話してくれました。「鉄板上で錆を育て、いい錆が生まれる頃合いを見はからってアクリルに転写します。作業を繰り返すうちに農業のようにも感じて『錆の収穫 / Rust Harvest』と名づけました」

日本の木材資源の活用方法を探るプロジェクトへの参加がきっかけとなった「ForestBank」では、枝葉などを無機原料樹脂に封じたうえで研ぎ出した素材づくりに始まります。土地の木の実や土が封じられることもある素材での家具やテーブルウエア。「少し手を加えることで新しい価値が生まれる。そうしたきっかけをもたらすこともデザイナーの大切な役割だと思います」

FM2-6.jpg

狩野佑真「Rust Harvest」。©Gottingham

FM2-7.jpg

狩野佑真「ForestBank」のディテール。©Kusk

---fadeinpager---

フィンランドで学んでいた際に出会ったジャガード織りを始め、テキスタイルの構造そのものからとり組む氷室友里さん。使う人々が深く関わることのできるテキスタイルをかたちにし、テキスタイルの可能性そのものを広げています。作品のひとつが「SNIP SNAP」。二重に織られていて、使う人がハサミで思い思にカットし楽しむことが可能。切ったところに新しいストーリーが生まれ出る、という楽しさにも満ちた作品です。

「手を加え日々変化する過程を楽しむなかで、それぞれのテキスタイルはパーソナルな存在へと変化します。愛着をもって過ごしてもらえることを願っています」と氷室さん。これから行われるパリの展示では、布の表と裏とで表現された異なる表情を楽しめるテキスタイル、「BLOOM」も紹介されます。

FM2-8.jpg

氷室友里「SNIP SNAP」シリーズ。©courtesy of Yuri Himuro

FM2-9.jpg

氷室友里「BLOOM」シリーズ。©courtesy of Yuri Himuro

---fadeinpager---

オランダ、アイントホーヘンを拠点に活動している簑島さとみさん。プロジェクトのひとつが、肌の色のリサーチから始まった作品です。「日照量に応じた色素という機能面に留まらず、文化的、社会的な背景とも深く関わるのが肌の色ですが、私たちはその多様性を十分に理解していないと感じています」

FM2-3.jpg

オランダよりオンラインで記者会見に参加した簑島さとみさん。©Keisuke Fujita

そのうえで「肌色は容れ物。大切なのは中身」との考えが込められたバッグ、「Skin Tote」。ほかにも空気で膨らませる素材の研究に基づくレザーの家具もあり、パリ展ではこの家具も紹介されます。着想から完成まで、簑島さんの果敢な開発プロセスに注目ください。

FM2-10.jpg

簑島さとみ「Skin Tote」。©Ronald Smits

FM2-11.jpg

簑島さとみ「Inflatable Leather」。©Ronald Smits

---fadeinpager---

坂下 麦さんが一貫してとり組んでいるのは「SUKI」シリーズ。イサムノグチの「AKARI」を現代的に再解釈することができないかとの考えが、その出発点でした。「手作業で仕上げていて、デザインとクラフトとの中間点ともなるものであると意識しています」と坂下さん。東京での展示ではそのバリエーションを紹介。パリでの展示では、よりクラフト的なアプローチを目ざした新作も披露されます。

「SUKI」の名には、透き、漉き、隙、数寄など複数の意味が重ねられています。極薄の典具和紙と繊細なステンレス細線による構成で、紙をはる際には障子張りの手法を参考にしていたそう。風を受けて静かに、軽やかに、シェードが揺れる様子も実に詩的です。ほかに手がけているのは「PHASE」。ディスクを回転させることで生まれる月の満ち欠けのような光が、周囲を温かく包みます。

FM2-12.jpg

坂下 麦「SUKI」。©Baku Sakashita

FM2-13.jpg

坂下 麦「PHASE」。©Baku Sakashita

---fadeinpager---

「いつも実験や検証を重ねる中でものづくりを行っています」と語る三澤 遥さん。そうした自主研究のひとつが「動紙」で、丸や三角にカットされた小さな紙が動作ともいえるユニークな動きを続けます。予測不可能、瞬間瞬間で異なる動き。「紙の『あたりまえ』を覆すことはできないだろうか、意志といったものを紙にどう込められるのかを考えました。この作品によって『かもしれない』をつくることができました」

紙の動きから生じる繊細な音にも耳を傾けてほしい作品です。三澤さんは「年齢や国籍に関わらず、また、ことばがなくとも伝わるものを大切にしたい」とも。パリ展での来場者の感想も楽しみです。

FM2-14.jpg

三澤 遥「動紙」。©Masayuki Hayashi

---fadeinpager---

今回の「ライジング・タレント・アワード 日本」のクリエイターに特徴的なのは、自身の関心や問題意識をもち、思考や研究からたっぷりと時間を費やしていること。

周囲に丁寧に目を向け、身近にある素材を研究し、素材づくりからその手や身体を動かしながらの取り組みともなっています。領域をつないでいくしなやかな感性と果敢な活動から、ユーモアを含んでいたり詩的な表現が誕生していることも特色です。

この6名のほか、アトリエ・ダール・ドゥ・フランス(フランス工芸家組合)の選出として新設された「ライジング・タレント・アワード クラフト」の受賞者、陶芸作家の黒川 徹さんも会場では紹介。「野生の数学」との思考をキーワードに土との対話を重ねる黒川さんの力作です。

FM2-16.jpg

写真左から: 黒川 徹「Twist」「Circulation」。©Haruhi Okuyama

さらには、2020年にメゾン・エ・オブジェ・パリで紹介されたフランスの「ライジング・タレント」8名(組)の作品も会場に。こうして、たくさんの輝く才能を知ることができるのは、本当に嬉しいこと……! 
 

写真11.jpeg

フランスの新鋭クリエイターたちにも注目を。

クリエイションの生き生きとした空気に包まれた会場では、私自身、さまざまなインスピレーションが次々広がっていく楽しさを実感しました。パリのメゾン・エ・オブジェの会場にわくわくしながら向かい、展示のひとつひとつを見て歩く際の高揚感も鮮やかに蘇ってきました。新たな発見から考えを巡らせたり……。世界が大きく動き続けているいま、豊かな創造性から広がるデザイン・ダイアローグの大切さを改めて強く感じています。


 

f3b76269819b_l.jpg

『デザイン・ダイアローグ メゾン・エ・オブジェ・パリ展』
会期:~3/21(月・祝)日本橋髙島屋 S.C. 本館8階ホール(東京都中央区日本橋 2-4-1)
tel: 03-3211-4111(代)
営)10:30〜19:00 (最終入場19:00)
※3/21は16:00まで(最終入場15:30)
入場料:一般¥500、中学生以下無料
www.takashimaya.co.jp/store/special/maison-objet/top.html

巡回展予定:
2022年4/28(木)〜5/9(月)髙島屋京都店 
2022年8/17(水)〜8/30(火)ジェイアール名古屋タカシマヤ 

 

photography & text: Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
Figaromarche
airB
言葉の宝石箱
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories