MINO SOILエキシビション第2弾は、「かたちになった土」の紹介。

豊かな陶土層がある岐阜県の美濃地方。それらの土の歴史を知るには約1千万年もの時を遡ることになります。一帯にあった花崗岩が時間をかけて風化し、海底に沈んだことで粘土鉱物に。その後、いまから約500万年前に出現した東海湖の湖底に蓄積し、さらに数百万年の時間をかけてつくられてきた土です。

MINO SOIL(ミノ・ソイル)はこうした美濃の陶土の可能性を探るブランドの名。その最新の取り組みが、2022年4月29日(祝)まで西麻布のギャラリーで紹介されています。

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カリモク コモンズ トウキョウの1階ギャラリーでの展示風景。photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

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MINO SOILのクリエイティブ・ディレクションを担うのは、ダヴィッド・グレットリ。「良質の土があったからこそ美濃の人々の生活や文化が育まれてきたことを現地で知ったときには、感動しました」

「陶磁器の生産量では日本でいちばんという美濃ですが、粘土鉱山そのものは大切にしないとならない貴重な存在です。美濃の土に感謝しながら今後を考えようと始まったMINO SOILでは、あらかじめ3回のエキシビションを計画しました。2021年6月に開催した第1回目のエキシビション『Archeology of Mino』では、陶磁器産業を支えてきた土そのものに焦点をあてました。第2回で紹介しているのは、かたちになった土、です」

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岐阜県多治見の総合タイルメーカー、エクシィズのブランドTAJIMI CUSTOM TILESのクリエイティブ・ディレクターを務めるダヴィッド。現在はスイスが拠点。本展にあわせて久しぶりに日本に。

「土から始めるとどのようなものが生まれてくるのか。美濃の原土に触れてもらい、浮かび上がったイメージを職人さんと一緒に探ってもらいました」。

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デザイナーとして参加しているのは、カネ利陶料(陶土製造販売、日本)、クーン・カプート(デザイナー・デュオ、スイス)、ディミトリ・ベイラー(デザイナ−、スイス)、長坂 常(建築家、日本)、藤城成貴(デザイナー、日本)、リナ・ゴットメ(建築家、フランス)、ワン・ソダーストロム(クリエイティブ・デュオ、デンマーク)。

第3回のエキシビションで具体的な製品が発表される予定で、今回はそこに向かって動き出した各氏の取り組みのお披露目です。原土に触れ、手を動かし、タタラ機や押出成形といった昔ながらの機械を用いた技法も生かしながら「土のかたち」が探られていて、土との対話の様子が伝わってきます

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カリモク コモンズ トウキョウでの展示風景。photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

「新しいうつわをひとつつくる、新しい花瓶や家具をつくるといった進め方にはしたくなかったので、機能や使い方を限定してしまうディレクションはしていません。土の美しい表情を生かすために、釉薬はあえて用いないことも決めました」

「このように全体の方向性やプロセスは考えましたが、それ以外は7組に自由に進めてもらっています。もっとも、普段はうつわやタイルを製造している企業なので、これまでになかったノウハウを築いていかないとなりません。時間がかかることは承知のうえで、現場のみなさんとトライを重ねていきたいと思いました」

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photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

エキシビションに参加している3名に話を聞きました。

「土は気持ちがいいですよ。予想がつかないので。手にとって見ていると色における発見もあります」。そう語るのは、建築家の長坂 常さん。

220426-dj-MS06.jpg長坂 常さん。今回の取り組み『子は鎹(かすがい)』と。

「美濃を訪ねた際に何種類もある原土の説明とともに、異なる原土を調合して使いやすくしているのだということを知りました。そこで、土のブレンドを一歩進めてみたらどうなるだろうかと考えてみたのです」

「色はもちろん収縮率も違う原土と原土を組み合わせると、どんな変化が起こるのか。2種類の原土の間に双方をブレンドして団子状にしたものを置き、タタラの機械で潰して合体させてみました。置く方法や位置、大きさでもかたちは変わり、調和のしやすさもまちまちです。展示したのは実験から法則化されつつある途中段階、といったところ。もう半歩進めるとどうなるか、さらに探っていきます」

220426-dj-MS07.jpg美濃での作業風景。photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

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美濃の地で明治時代に創業し、産業向けの土の提供とあわせて作家ひとりひとりにオーダーメイドの陶土を提案しているカネ利陶料の5代目社長、日置哲也さんも参加クリエイターのひとり。カネ利陶料を継ぐ前から陶芸作家としても活動している土の専門家です。

「朝から晩まで土に触れ、土づくりに携わっています。私自身が陶芸をしているひとりですが、一般的には、陶土を巡る壮大なバックグラウンドにまで遡ることなく、手渡される使いやすい粘土としての意識となっているように思います。そうした現状に思うところもありました」

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美濃にて。photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

「粘土という原料になる前には山があり、地球があり、壮大な時間があります。私たちは地球に対して恩返しをする気持ちで、また、土に関わる人々の存在を心に留めながら、土を手にしていかないとならない。普段考えていることや伝えたいこと、違和感を覚えてきた点も、このプロジェクトに込めていきたいと思います」

日置さんは「土」そのものの魅力も次のように語ってくれました。「懐が深く、寛容な素材。手にとる人によって新しい表情が生まれます」。だからこそ、どう向き合うのかが、大切なのです。

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日置哲也さん。タタラ機を用いてベース部分を制作、表面に異なる粘土を施すことで乾燥や収縮の違いから独自の表を探った。土を熟知する人物ならではの試みの過程がうかがえる。

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「型を利用しない半量産型の製作方法を用いた製品を考えたいと思いました」と、展示作品を紹介してくれたのは、デザイナーの藤城成貴さん。

「押し出しという手法で、手ではつくり出せない緻密で正確な棒状の材料を調達し、形状は自由度のある手作業で製作するという、工業と工芸がバランス良く交わった製品が理想です」

「手作業で棒と棒を接合する際に出てくるT字状に交わる部分は、特別に製作した道具で棒の断面をきれいな半円状に切削したうえで、接合しています」

220426-dj-MS11.jpgphotography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

「焼きあがるまで先が読めないので、何度も焼き直しながら展示の段階に至ることができました。釉薬は使わずに土の表情を生かしていくプロジェクトなので、土を吟味し、今回は木節粘土を選んでいます。素材の特性や色はさらに探っていきます」

220426-dj-MS12.jpg藤城成貴さん。「土のカゴ」の発想で試みられた作品。

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MINO SOILのファウンダーのひとりである笠井政志さんのことばもお伝えしましょう。「これまで製造してきたうつわやタイルに留まることなく、土そのものにフォーカスした活動を行いたいと考え、MINO SOILを立ち上げました。土に始まる取り組みが可能であるのが美濃の特色なので、今回展示されたものをブラッシュアップして、次回のエキシビションを目指します」

「土に改めて触れることで、ローテクのなかでもイノベーティブな側面をひきだすことが可能ですよね。美濃の土の特色や魅力をデザインの力で表現することで、長く使ってもらえるものをつくっていきたいと考えています」とダヴィッド。

220426-dj-MS13.jpg会場には美濃から運ばれた鉱山の一部も。photography: Yurika Kono, Courtesy of MINO SOIL

陶土を掘ることは積み重なってきた土地の歴史を振り返ること。太古から続く歴史のうえで、私たちはどんな未来を紡いでいくことができるのでしょうか。

MINO SOIL第2回エキシビション「Transfigurations of Clay(Becoming Form)」は、その現在地点を知るとともに、進行形の動きに触れることのできる貴重な場です。

「人間(ヒューマンネイチャー)には自然(ネイチャー)が内包されている。そのことも心に留めて未来を探っていく姿勢が大切」。MINO SOIL第1回エキシビションに関わっていたインドの建築家、ビジョイ・ジェインが語ってくれたことばを会場で思い返していました。自然環境と人との関係やデザインの今後を考えるヒントに満ちていて、触発されるプロジェクトです。

MINO SOIL エキシビション vol.02
「Transfigurations of Clay(Becoming Form)」

会期:〜2022年4月29日(金)
会場:カリモク コモンズ トウキョウ 1階ギャラリー(東京都港区西麻布2-22-5)
営)12:00〜18:00 ※最終日は16:00まで
www.minosoil.jp

photography & text: Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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