「大切なのは未来を考えての行動」と語る、パトリシア・ウルキオラの最新デザイン。

いつも関わったプロジェクトを想像させてくれるファッションで登場、デザインに込めた想いを情熱的に語ってくれる姿にこちらも思わず身を乗り出してしまい、気づくとすっかり話にひきこまれている……。そうした魅力溢れるデザイナー、パトリシア・ウルキオラ。

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今週開幕したミラノデザインウィークで披露された新作より、カッシーナの「SESTIERE」。photography: Courtesy of Cassina

スペインに生まれ育ったパトリシア。マドリッド工科大学で建築を学んだ後にミラノ工科大学でも建築を専攻し、巨匠アキッレ・カスティリオーニに師事。ミラノにスタジオを設けたのは2001年のこと。建築プロジェクトや家具デザインをはじめ、テキスタイルやテーブルウエアなど、広くデザインを手がけています。

シャルロット・ペリアンに続く2人目の女性デザイナーとしてコレクションをデザインしているカッシーナ社では2015年にアート・ディレクターに就任、ここでもすぐれた手腕を発揮中。

また今週行われているミラノデザインウィークでは最新家具やインスタレーションなど20社以上とのプロジェクトが披露されていて、それぞれ話題に。デザイン界のキープレイヤーとして最前線で活躍する姿が改めて紹介されています。

 

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カッシーナの新作ソファ「SENGU BOLD」。photography: Courtesy of Cassina

こうしたパトリシアが重視しているのがサステイナビリティの観点で、環境に配慮した素材の研究などを早くから始めていました。今年のミラノデザインウィークで披露されたソファ「SENGU BOLD」では、背もたれに置かれるソフトクッションのパッドにリサイクルのPETファイバーを用いるなど、パトリシアと企業の皆さんとの対話の様子がうかがえるものです。

デザインによって伝統やものづくりの歴史を未来へとつなぐ意欲的な試みも続けています。最新プロジェクトでの好例が、カッシーナのアクセサリーコレクション「Cassina Details」の花器「SESTIERE(セスティエーレ)」。ヴェネツィア、ムラーノ島の伝統的なガラス工芸の技術を丁寧にふまえたデザインで、典型的な縞模様が生かされています。

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「SESTIERE」。パトリシアデザインならではの美しい色……! photography: Courtesy of Cassina

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こちらは日本でいま目にできる展示から。カッシーナ・イクスシー青山本店のほか名古屋、大阪、福岡の各店舗で行われているダイニングテーブルを中心とするコーディネート展示「DINING RECIPE」。写真は「SENGU table」と「DUDET Chair」。チェアはポリウレタンフォームのパッドを金属製の構造から分離できる造りで、マテリアルリサイクルが可能。photography: Courtesy of Cassina 

フロスから発表された新作の照明器具では、アルミニウムによる支柱のほかに天然由来の再生可能な資源としてバイオプラスチックを使用。接着部品を含むことなくネジによる組み立て構造としていることで、分解ができ、素材のリサイクルができるように考えられています。

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FLOS「ALMENDRA」。その名前はスペイン語で「アーモンド」。アーモンドの花と実からインスピレーションを得たそう。photography: Tommaso Sartori

さまざまな企業のプロジェクトに関わりながらも、その軸となっている自身の姿勢がまったくぶれていないというところも、パトリシアの活動の評価されるところ。

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ミラノデザインウィークでパトリシアが手がけたMorosoショールームのインスタレーションでは、空間を区切る素材にテキスタイルメーカー Kvadratの「Kvadrat Really」を選択。アップサイクルの硬質繊維ボードと吸音性フェルトですべて再利用が可能というもの。写真奥の色鮮やかなソファはパトリシアのデザイン、手前はスウェーデンのFront Designのソファ。photography: Alessandro Paderni

そして、もうひとつの朗報です。こうしたパトリシアのデザインに先日、私たちが日々着用して楽しめるものが加わりました。

JINSがデザインの第一線で活躍するデザイナーを招いて取り組んでいる「JINS Design Project」の第6弾となるアイウエア・コレクションです。

同プロジェクトにパトリシアが参加した際、その始まりにおいては、「現代のエレガンス」に関する会話がJINSの開発チームとの間でなされたそう。パトリシアの持論は「未来のことを考えて行動することこそ、現代におけるエレガンス」

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ジャスパー・モリソン、ロナン&エルワン・ブルレックなど話題のデザイナーを招いてきたJINS Design Projectの第6弾。パトリシアと4年ごしのプロジェクトの完成というのも嬉しいニュース! 写真は層になった色彩が特色の「ROUND LAYERS」で、このパープルのほかネイビーとマットブラックの全3種類。photography: Courtesy of JINS

そのうえで提案されたコンセプトは「HILO(ヒロ)」。パトリシアが生まれたスペインで「糸」を意味することばですが、未来へとつながっていくデザインの提案にまさにふさわしい名であることを感じます。

このヒロには2タイプのデザインがあります。美しい2種類の色彩が層を成す「LAYERS(レイヤーズ)」と、一本の糸の動きやひと筆書きのなめらかな線を思い起こさせる「FLUID(フルイド)」

それぞれにラウンドとスクエアの2デザインが用意されており、どれもパトリシアらしいニュアンスカラー……!「家具とは異なるアプローチでデザインを進め、顔に無理のないカラーリングを考えています」という本人のことばの通りに、どのデザインも私たちの顔になじむものとして考えられています。

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「SQUARE LAYERS」。写真はマットブラック、他にライトブラウンとブラウンの全3種類。それぞれ8800円(レンズ込)との価格も嬉しい。photography: Courtesy of JINS

ここでもパトリシアが重視するサステイナビリティを軸にすえたものとなっています。環境負荷が低い素材の検討を重ねた末、選択されているのは石油由来のポリアミド素材よりも温室効果ガスの排出量が少ない植物由来のマテリアル。非可食の作物であるトウゴマ種子から得られるひまし油から精製された成分を約半分含むバイオ素材です。

「私のデザインに適した耐久性や柔軟性があり、提案したカラーリングも表現できるなど、希望通りのマテリアルでした」と本人。

同素材を製造するフランスのアルケマ社はトウゴマ原産国のインドで持続可能な栽培プログラムに参画。収穫量の向上に取り組むほか水や土壌といった資源の維持管理にも力を注ぎ、労働環境にも配慮した活動を展開しています。素材を巡るさまざま点に目を向けたうえでの選択だったのでしょう。

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「ROUND FLUID」、流れるようなライン透明感に満ちた色彩がかける人の顔になじむ。このブルーの他にレッドとマットブラック。photography: Courtesy of JINS 

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「SQUARE FLUID」、メガネではなかなか出会うことのできない美しいダークグリーン。他にブラウンとマットブラック。photography: Courtesy of JINS

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折りたたみができる専用ケースもあわせてデザイン。ケース外側にはリサイクル紙を配合した用紙を、内側には100%リサイクルのポリエステル素材を使用。ロゴの印刷でも環境配慮のインクを厳選するなど徹底したこだわりが。 photography: Courtesy of JINS

JINSとのプロジェクトについて本人の話を聞くことのできた今春、メガネを手にとり語ってくれた実に印象的なことばがありました。

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「HILO」をかけたパトリシア。photography: Courtesy of JINS

「私のデザインにおいて大切なのは丁寧なリサーチ、そしてイノベイティブであることです。ただ、こうしたことは、声高に訴えたり、一瞬にして目に飛び込んでくる類のものでなくても良いと考えているんです。革新的な側面というのは、選択する素材や技術に内包されるものですから。今回のアイウエア・コレクションでも私が大切に思っていることをかたちにできました」

手にとる人々との関係はもちろん、現代の生活と環境との長い関係にも丁寧に目を向けながら提案されるデザインの数々。建築、家具からアイウエア・コレクションまで、パトリシアのデザイン姿勢を満喫できる機会がさらに広がっています。その嬉しさを改めて感じています。

Cassina ixc.
https://www.cassina-ixc.jp

日本フロス
https://japan.flos.com

Kvadrat
https://www.kvadrat.dk/ja

JINS Design Project  
https://designproject.jins.com/jp/ja/
「HILO JINS × Patricia Urquiola」はJINS一部店舗のほか
JINSオンラインショップで販売中。

 

text: Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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