自然の美しさを再発見し、私たちとの関係を探るワークショップ。吉泉 聡「クラフト・アズ・ダイアログ」
デザイン・ジャーナル 2024.12.27
デザインスタジオ TAKT PROJECT(東京)の代表を務める吉泉 聡さんが、今年9月、フランスのワークショップ施設、ドメーヌ・ドゥ・ボワビュシェに招かれて行ったワークショップがありました。
今回はその様子をお伝えします。
ドメーヌ・ドゥ・ボワビュシェ。19世紀に立てられた城も敷地内に。
photography: Courtesy of Satoshi Yoshiizumi, TAKT PROJECT
今年は、ここ数年以上に様々な分野の方と話ができた一年でした。そのなかでしばしば挙がっていた題材のひとつが、「自然」。私たちは周囲の自然環境とどのような関係を築くことができるのか、デザイナーやアーティストはもちろんのこと科学者やエンジニアといった幅広い方々の取材を行うことができ、興味深い話に会話も弾んだ一年となりました。
この題材に関して継続的に取材をさせてもらっているひとりに、デザイナーの吉泉 聡さんがいます。吉泉さんが代表を務めるTAKT PROJECT(タクト・プロジェクト)では自然を題材にした自主的なプロジェクトを続けており、2001年からは仙台にも活動拠点を設け、スタジオメンバーで東北各地を巡るリサーチも行われています。
それだけに今回のワークショップも気になるところ。2024年のしめくくりの時期を迎え、その内容を振り返ってもらいました。
パリから、TGVとクルマで南西に移動しておよそ3時間。田園風景のなかにつくられたデザインや建築の研究センター「ドメーヌ・ドゥ・ボワビュシェ」では、ワークショップのほかに展覧会なども企画されています。敷地内には日本人建築家 坂 茂の紙のパビリオンなど建築物を巡ることのできる「アーキテクチュラル・パーク」も設けられている、敷地面積150ヘクタールという広大な施設です。
手入れがされずに残されていた貴族の領地を手に入れ、世界に知られるデザインプロジェクトの地としたのはアレキサンダー・フォン・フェゲザック氏。欧州の家具メーカーとして知られるヴィトラがドイツ、ヴァイル・アム・ラインに設立したヴィトラ デザイン ミュージアム(1989年開館)において、その創設より関わり、館長も務めた人物です。
ヴィトラ デザイン ミュージアムでなされていたワークショップが、ここボワビュシェで開催されるようになったのは1994年のこと。以来、夏になると第一線で活躍している建築家やデザイナー、アーティストなどを講師に招き、毎年20ほどのプログラムが行われてきました。
創設者フォン・フェゲザック氏の右腕として、プログラムディレクションを現在担うのは、2013年までヴィトラ デザイン ミュージアムのキュレーターを務めていたマティアス・シュワルツ=クラウス氏。敷地内の施設に宿泊し、地元の食材でつくられる食事など、ボワビュシェの環境を堪能できるワークショップの数々は、引き続き注目を集めています。
講師として招かれた吉泉さんのワークショップは、『Craft as Dialogue』。対話としてのクラフト、と名づけられました。参加者はフランス、イタリア、ドイツ、スペイン、アメリカ、香港、韓国、そして日本からも。年齢も幅広く20代から60代。こうして夏のホリデーシーズンの終盤となる9月上旬、5日間のプログラムが幕をあけました。
「私が担当したワークショップは、自然を新たな目でとらえ、発見した美しさを大切にしてほしいと考えた内容です。美しい自然、というような表現で言われるステレオタイプの美しさではなく、周囲に目を凝らすことによって自分自身が感じた美しさを探してもらいたかった」と吉泉さん。
「周囲に潜む造形の不思議であったり、繊細な構造美など、見過ごしていた様々な特徴を美しさとして感じ、再発見してもらったうえで、それを他の参加者にシェアしてもらいます。こうした過程を経て、最終的には3メートル四方ほどの大地を集めた素材で敷き詰める『マテリアル・カーペット』を制作してもらう内容にしました」
自然に向きあうことで初めて発見することができた世界と、私たちはどのような関係を築くことができるのでしょうか。これはとても興味深いことです。吉泉さんの言葉を借りるなら、「周囲に向き合う私たちの『態度』そのものが変わらないかぎり、何も変わりません」。私たちの日常生活しかり、すでに深刻な状況になってしまっている地球環境の問題に向き合う際にも同様です。
そしてもうひとつ。タイトルに「craft」の言葉が含まれているように、吉泉さんのワークショップでは、各自が「つくる」ことの意義も大切にされていました。
「手を加えることも、欠かせないプロセスだと考えました。ひとが本来持ち備えながらも、日常生活のなかで眠ってしまっている感覚をいまいちど活性化するためにも、『つくる』行為が大切であると思っています。『つくる』ことは、作品を完成させるためだけに行う行為ではなく、その行為自体が、身体を通して自身を感じさせる方法だと思っています』
こうしたワークショップが、敷地内で採れたオーガニックな食材による食事を味わいつつ、あるいは、カフェやコーヒータイムでの会話も楽しみつつ、進められていきました。ときおり湖畔で過ごす、なごやかな時間も含みながら。
吉泉さんが一貫して大事にしている制作のあり方も、参加者たちに伝えられました。
「木の枝や葉など、各自が見つけたものを素材に、あらかじめ計画した表現に沿って制作を進めるという過程もありますが、そのものとの対話から発生するようにもたらされる表現、それらに導かれるように進める制作の過程もあります。双方のバランスが大切です」
「また、制作技術の優劣ではなく、互いの視点を共有し認めあうという点も今回のワークショップの大切な趣旨としました。何に気づくことができるのか、そのためにもまずは自分の感覚と対話をしないとならないので、各自の時間を持ってもらったうえで、発見したものや考えを各段階で発表してもらいます。土地との対話も欠かせないので、作品の設置場所も広大な敷地から各自に自由に決めてもらいました」
「自然豊かなボワビュシェの環境は、都市でデザインに関わる立場からいうと、とても得がたい環境です。ここに滞在できる機会を生かし、新たな視点を得ることや、視点を変えてみることがいかに重要か、私自身も改めて感じましたし、参加してくれた皆さんからも、周囲を見る自分の目が変わった、という言葉を聞けたことも嬉しいことでした」
私たちが出会える世界の大切さ。それだけでなく、そのつど過ごす環境から感じとれるものをうけとめながら、私たちはそこにどのような創造性を重ねあわせていけるのでしょうか。それも、無理のないかたちで。
今年のワークショップの様子を吉泉さんから教えてもらいながら、周囲に目を向けようとする気持ちや、その時々の出会いによって感じることのできた一つひとつを自らの心に留めていくことの重要性を改めて考えました。一年のしめくくりとなり、新たな年の始まりをすぐそこに控えたこの季節、忘れてならない大切なことについて、楽しく思いを巡らせています。
ドメーヌ・ドゥ・ボワビュシェ
https://www.boisbuchet.org
吉泉 聡(TAKT PROJECT)
https://www.taktproject.com/ja/
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami