運河も楽しめるベーカリーカフェ
「breadworks」オープン
デザイン・ジャーナル 2010.03.10
天王洲にベーカリーカフェが誕生。天井が高く明るい空間、もとは倉庫だった建物です。
右の建物がT.Y Harbor brewery。その左が、今月オープンしたばかりのbreadworks。
Photo © Noriko Kawakami(all)
1997年にオープンし、今も連日賑わっているレストラン「T.Y. Harbor brewery(ティー・ワイ・ハーバー ブルーワリー)」と、運河に浮かぶ「waterline(ウォーターライン)」に続いて誕生した「breadworks(ブレッドワークス)」。ブレッドワークスは毎朝8時の開店です。
床は彩色されたオーク。カフェスペースには、同じオーク材でつくられた重厚な長テーブルが置かれています。このテーブルをはじめ、家具はすべてオリジナルデザイン。
パンが大好きで、ベーカリーには以前から興味を持っていたというオーナーの寺田心平さん。ブルーワリー隣の倉庫をベーカリーにする計画を、昨年より時間をかけながら進めていたそうです。そしてついにbreadworksが開店、この一角に3店が並ぶことになったのですが、朝から夜、3つの店のどれかはオープンしているというのは実に嬉しいこと。
またティー・ワイ・ブルーワリーは「天王洲エール」でも有名です。そして「ビールは液体のパンと言われるほど、パンとビールは近い関係」(寺田さん)......なるほど!
お伝えしたいことは山ほどあるのですが、デザイン・ジャーナルらしく、まずは空間デザインから紹介します。「隣にあるブルーワリーのレストランはハードなロフトのイメージを残した空間になっていますが、こちらのbreadworksは、ソフトでやさしい雰囲気の空間にしたいと考えました」と寺田さん。言葉の通りに、トップライトや窓から自然光が差し込み、開放的な空気に包まれています。エントランス左には厨房が見え、カフェ右奥のビールタンク室との間はガラス壁。その全体が連なって、実に広々とした空間に。
高い天井とレンガや木の軽やかな表情。都内にあるティー・ワイ・エクスプレスの店舗はどれも堅苦しくない、居心地よい空間ばかり。表層的なデザインだけではとても生まれ出ない温かい空気に包まれていて、そこに私も強くひかれます。
エントランス横に大きなガラス壁。ベーカリー厨房の様子が目にできます。
パンのスタンドもオリジナル。店に関わる人々の愛情とこだわりは、こうした細部にも。
インテリアデザインは、寺田さんのディレクションのもと、長崎健一さん(KROW)と木田小百合さん(Verse)のコラボレーション。長崎さんは、インテリアデザイナーの植木莞爾さん率いるカザッポ&アソシエイツに在籍中、天王洲のブルーワリー、ウォーターラインと青山の「Beacon(ビーコン)」のデザイン担当でした。天王洲をよく知る寺田、長崎チームに今回、ヤブ・プッシェルバーグ NY社を経てカザッポ&アソシエイツに入社し、長崎さんと同時期に独立した木田小百合さんが参加。気鋭デザインチームが結成されたのです。
長崎さんが今回のデザインを説明してくれました。「時を経た倉庫そのものの空間となじむように、質感の醍醐味を感じとれる素材を厳選しました。そこにガラスやスティールを組み合わせ、柔らかさのなかにも洗練されたイメージを実現したいと考えました」。床は染色オーク。壁のレンガはベルギー・ブリュックタイル。ともに、淡く美しい色調。
壁には高橋信雅さんの作品。Breadworksのショップカードにも彼のドローイング。テイクアウトのための袋やコーヒーのスリーブにもこうしたドローイングが登場します。
そしてライティング。こちらも、寺田さんのレストランのデザインにすでに参加している谷田宏江さん(MAXRAY)が関わっていました。谷田さんはこれまでに、上記でも触れた「ビーコン」や南麻布の「Cicada(シカダ)」のライティングデザインを担当しています。
「今回は空間デザインのコンセプトをふまえて、柔らかなライティングをデザインしています」と谷田さん。カフェの間接照明や、客席からベーカリー厨房の壁を見たときの間接照明など、光の表情を丹念に計算しています。「夕暮れからは、昼のおよそ半分の明るさに照明を調整できるようにしています。夕刻からの明かりもぜひ楽しんでください」。
谷田宏江さん。ケース上に吊られた照明器具は、アルヴァ・アアルトが1930年代にサヴォイレストランのためにデザインし、1950年代にartek(アルテック)から製品化された「Golden Bell」の復刻デザインとなるもの。愛らしい姿がこの空間にもぴったり。
肝心のパンは、というと、ブルーワリーのビール酵母を活かしたビアブレッドや、ビアブレッドの生地を活かしたパンなど、この店ならではのパンを味わえます。日々30〜40種類用意されるパンはもちろん、日替わりスープや、キーシュ、タルトなどにも期待を。
というのも、パンをはじめとする全メニューはティー・ワイ エクスプレスのフード&ヴィバレッジ・ディレクター、ディビッド・キドーの責任監修。今回も試食に試食を重ね、味を徹底検討。食パンもしっかりとした味でありながら重すぎず、本当においしい。
写真の2段目に置かれているのがビアブレッド。
フォカッチャやスープ。この日のスープはニューイングランド・クラムチャウダー。くるみとゴルゴンゾーラのパン(右手前)はビアブレッドの生地。
左から、breadworks店長の大槻悦子さん、ベーカリープロジェクト責任者の森川信哉さん、ティー・ワイ・エクスプレス代表の寺田心平さん、breadworksシェフの佐野泰弘さん。私たちを幸せにしてくれる、ティー・ワイのドリームチームです。
運河に面したデッキにはテラス席が設けられる予定だそうで、このBreadworks、天王洲をこれまで以上に、気軽に楽しむきっかけを増やしてくれそうです。
しかも春。朝の運河散策がとくに楽しい季節の到来です。
breadworks
8:00~20:00 年中無休(年末年始除く)
TEL 03-5479-3666
http://www.tyharborbrewing.co.jp/
A new bakery and café has opened its doors in the reinvigorated Tennozu canal district, near Shinagawa in Tokyo. "breadworks" is one of the restaurants of T.Y. Express. They have already opened two other restaurants here, named "T.Y. Harbor brewery" and "waterline." The breadworks is open from eight to eight everyday.
The space design involved renovating a warehouse. It was directed by Simpei Terada, the owner of T.Y. Express -Terada was joined by two talented young designers, Kenichi Nagasaki at KROW and Sayuri Kida at Verse, both of whom used to work at Casappo and Associates. They designed all of the furniture for this space and selected the soft color tones for each of the materials, from the brick walls to oak flooring. Nagasaki and Kida also employed glass and steel - as a result, an open-plan, naturally lit, sophisticated space was created. Now, Terada is planning to place terrace seating on the deck in front of the canal. breadworks offers a unique opportunity to take in the atmosphere of the canal district in Tokyo.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami