「EIC」「Tree Fruit Press」
CLASKA(クラスカ)にて7日まで

今回も引き続き、11月7日まで開催されている展示の情報を紹介します。場所はCLASKA(クラスカ)のギャラリー&ショップ ドー。

ストックホルムを拠点とする横山いくこさんが関わる2つのプロジェクト。横山さんのブログ「ストックホルマレ・デイズ」ですでにとり上げられているので、そちらをご覧になった読者も多いはず。そう考えながらも、本当にすてきな作品、会場で目にした瞬間に「デザイン・ジャーナルでも速報を掲載しなくては!」と思い......。

1_kawa101105.JPGドーでの展示風景。Photos: Noriko Kawakami

ひとつが「Editions in Craft」(エディションス・イン・クラフト)、「EIC」です。

プロジェクトを進める横山さんとRenée Padt(レネー・パッド)から、都内でプロジェクトの概要を説明していただいたのが、昨年夏。猛暑の日に昼ごはんを食べながら。さらにプロジェクトの進み具合について、昨年秋、雨のストックホルムで夕ごはんを食べながら。

その後2人は、若手のデザイナーデュオ、BCXSYのBoaz Cohen(ボアズ・コーヘン)、山本紗弥加と南アフリカに向かいました。現地ワークショプを経て完成を見た品々の様子については、今年春、話を聞かせてもらっていたのです。

EIC、最初の成果となる今回の作品。南アフリカのビーズを用い、伝統的な制作手法を大切にしながらも、伝統がどう未来に生きていくのかという点を見すえ、現地の人々と共同開発した品々が完成したのでした。

ビーズの色、コイル状にされたビーズの密な感じなど、あれほど写真を見せてもらっていたというのに「いいなあ!」と改めて新鮮で(作品はやはり直に目にしないといけません)。会場では、現地ワークショップの写真もあわせて紹介されています。

2_kawa101105.jpg

3_kawa101105.jpgエディションス・イン・クラフト。作品は会場で購入できます。

そしてこのEIC、プロジェクトのマークにしても、作家名をそれぞれ記したタグやその紐にしても、本当に丁寧に準備されていて、その点も私が興味を持ったひとつです。

グラフィックは、グラフィックデザイナー/アートディレクターのAndreas och Fredrika(アンドレアス + フレデリーカ)のAndreas Bozajic(アンドレアス・ボザイック)とFredrika Jacobsson(フレデリカ・ヤコブソン)。二人も本展を機に、ストックホルムから来日しました。

さて、このアンドレアスとフレデリーカ、ドーで紹介中の横山さんのもうひとつのプロジェクト「Tree Fruit Press(ツリー・フルーツ・プレス)」の中心メンバーでもあります。昨年、横山さんと一緒に彼らのスタジオで話をした時間を懐かしく思いだしました。

1年って、日々濃厚ながらも慌ただしい時間を過ごしているうちに、気づくとあっという間に過ぎてしまったりするのですが、そのあいだは各自の仕事をしっかり進め、その間細かなやりとりをしなくとも、再会したときにプロジェクトの最新状況を伝えあえるのは本当に嬉しいこと。再会するまでに考えたあれこれを話しあえるのは、幸せなこと......。

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ツリー・フルーツ・プレス。

ツリー・フルーツ・プレスの記念すべき第一冊目、タイトルは『またぎ』......またぎ? 英語名「the Bear Hunter」だと、ピンとくるでしょうか。英語と日本語で記されていて、会場でも購入できます。

  草がかさかさ音をたてるのをやめ、しゅーしゅーと音が聞こえる。
  「あれはトム?」
  「たしかに」
  トムが空中車で上昇している!

という一文ではじまる物語。文は、Stefan Lindberg(ステファン・リンドベリ)。絵はNils Rundgren(ニルス・ルンドグレン)、写真はMikael Olsson(ミカエル・オルソン)。日本語訳は横山さんが手がけています。

一度読んだら忘れられないフレーズばかり。今日も私の頭のなかには、朝からずっと「トム」がいる感じ。横山さんのOKをいただき、ランダムに3か所、抜き出してみます。

  トムは屋根の上の男に呼びかけた。
  「ひょっとして青色男ですか?」

  ごはんからは、革とみかんの皮のにおいがする。

  それからトムは聞き耳をたてて言う、
  「小さな電車の音がシャボン玉の中から聞こえるよ」
  それで?

会場で本を展示している子ども用ブックシェルフ「Book Trolley Shelf(ブック・トローリー・シェルフ)」は、スウェーデンのやはり注目デザイナー、TAFがこのプロジェクトのためにデザインしたものです。車輪がつけられ、幼い子どもでも引くことができる、こちらもよく考えられていました。

5_kawa101105.JPGTAFのシェルフと。『またぎ』日本販売価格2,900円。手にした際の表紙や紙の感触も心地よく、物語、絵、写真ともにすてきです。

横山さんはじめ関わったクリエイターたちのプロジェクトに込めた想いがしっかり伝わってきて、ものづくりに大切な「心」についても改めて考えさせられるEICとフルーツ・ツリー・プレスのそれぞれ第一弾、フラワーベース、『またぎ』の本。考えるほどにもっとFIGARO.jpの読者に紹介したくなってしまう、興味深いアート/デザインのプロジェクト。

合計で一体何時間眠ったかしら、というほどあわただしかった私のこの一週間、EICとツリー・フルーツ・プレスのおかげで、穏やかな気分で週末を迎えられそうです。最後にもう一度、本当に気に入ってしまった『またぎ』から、さらに2行だけ。

  指の先が凍えてきたから、帆をたたもう。
  だれかがトナカイをつれて家にかえる。

......すっかり北欧気分になったところで、皆さん、どうぞすてきな週末を!


CLASKA Edition 2010
11月7日(日)まで。
http://www.claska.com/
ドーでは「ドーのクラフト展」も開催中。
11月21日(日)まで。こちらもぜひ。

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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