フランス大使館にアーティスト集合。
「No man's land」展
デザイン・ジャーナル 2009.12.07
アーティストが大使館を占拠?! いえいえ、大使館主催のアートイベントです。
Asami(アサミ)のフラッグ「All World Flag」は「No man's landとはすべての国籍の人々に開かれた土地」との考えを表現。建物のペインティングはMonsieur Chat(ムシュー・シャ)。彼の「猫」は他にもあちこちに。Photo © Noriko Kawakami(他写真も)
1957年に建てられ、今秋まで使用されていた在日フランス大使館旧庁舎(広尾)で、来年1月末まで開催されるアートイベントが幕をあけました。「No man's land 創造と破壊@フランス大使館」。アート、デザイン、ファッション、建築......と、ジャンルの枠を超えるようにして、日仏およそ70組の表現者が集結しています。
監修を務めた同大使館文化アタシェのHélène Kelmachter(エレーヌ・ケルマシュター)さん。エントランス、Nicolas Buffe(ニコラ・ビュフ)のゲートで。
大使館はすでに隣接する新築建物に移転ずみ。来年はこの場所でマンション建設工事が始まるそうです。解体され、消えてしまう運命の建物を会場として、様々なアーティストに表現をしてもらうというエキサイティングな企画を考えたのは、在日フランス大使館 文化部。サイトスペシフィックなアートが、場の存在、特色を改めて浮かびあがらせます。
旧庁舎本館1階に入って右手すぐには、アーティストとしての才能も評価されている伊勢谷友介が代表を務める「リバース・プロジェクト」による「リバース・カフェ」。ここから日本庭園の紅葉(もみじ)を楽しめます。そしてその紅葉には、アーティスト、Lucille Reyboz(リュスイーヌ・レイボズ)の依頼で、バンテージ・アーティスト、藤原ひとみの「縛り」の作品......。
アーティストやデザイナーを始め、様々な分野で活躍する友人たちと「リバース・プロジェクト」を始動した伊勢谷友介。まずはこのペイティングが迫力満点。「再生」をテーマに制作されたカフェの家具も力作です。
そのカフェ近くのガラス壁には、お相撲さん......三宅信太郎の作品。
「No man's land」とは、無人地帯、所有者不在の土地を意味する言葉です。対立する軍の中間地帯、緩衝地帯といった意味もあります。棚にあった資料は消え、資料室も空、人気のない執務室など、館内に入ってすぐにスリリングな空気を感じ、本展の醍醐味を知りました。
執務室がシルバーになっていたり......。Alexa Daerr(アレクサー・ダエール)作品。
執務室で思いきりバスケができたり。Lilian Bourgeat(リリアン・ブルジャ)作品。
執務室がアーティストのお部屋になっていたりも。松井えり菜の作品。
会期中の8週間は、建築探訪としても見逃せない機会です。というのも、旧庁舎本館の設計は、Joseph Belmont(ジョゼフ・ベルモン)(1928-2008年)。20世紀巨匠建築家のひとりJean Prouvé(ジャン・プルーヴェ)に師事し、高級官吏でもあったベルモン。1950〜1980年代にはフランス国立図書館やグラン・アルシュなど、フランス、グラン・トラヴォー(大建築事業)にも携わりました。そうした彼が、遠く東洋の国の大使館建築に関わったのは20代のとき。着工は彼がまだ24歳のときでした。
以来、時の経過とともに改装が重ねられてきた旧庁舎ですが、階段や廊下、資料室といった随所の造形から、当時の気鋭建築家の情熱が伝わってくるかのようです。無駄なく機能的な収納棚など、プルーヴェの弟子らしい造形を見て歩くのも楽しく、今では見られない当時の素材、また窓枠ひとつひとつのかたちなど、時間がいくらあっても足りないほど。
旧本館だけでなく、その後1960年代に設けられた旧庁舎別館も今回の会場となっています。別館1階にあった図書館を手がけた建築家、Richard Bliah(リシャール・ブリア)。その空間を本展では、自ら青に。勢いよく放たれたのは絵の具の弾でした。
開催は木曜から日曜。金曜と土曜は夜10時まで。凛とした空気に包まれた真冬の大使館、それもついさっきまで執務室として機能していた気配も漂うインスタレーションもあったりして、夜間の鑑賞は日中とはまた異なるスリルが......。
鮮やかなフラッグはためくノーマンズランドは、人々の様々な思いをクロスさせ、過去と未来とをつなぐ中間領域。この期間そこにある、アートの領土。
何と美しい手すり。感動しながら階段を昇っていくと、Claude Lévêque(クロード・レヴェック)作品である2文字に出会う。ん? 鼻血......。
なかなか訪れる機会のない大使館。旧庁舎を目にできる最後のチャンスです。
「NO MAN'S LAND 創造と破壊@フランス大使館」
2010年1月31日まで。入場無料
木・日:10:00〜18:00、金・土:10:00〜22:00 (入館は閉館30分前まで)
休館:月〜水、12/31〜2010年1/3
詳細は http://ambafrance-jp.org/nomansland
The French embassy in Japan is current holding an art event titled "No man's land" at their previous government facilities. It will continue until the 31st of January, 2010. The French embassy in Japan has just moved to a new building next to the previous one. The previous building which was designed by Joseph Belmont (1928-2008) and built in 1957 will be torn down at the beginning of next year. This art event is the last opportunity for us to visit their venue.
In total, almost 70 artists, designers and architects gathered to create the site-specific art installations. The importance lies in how the artist can approach the venue on its own terms. Here, "No man's land" indicates the territory of art that is beyond national borders.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami