OMAパートナー、重松象平さんに聞いた、新ストア「コーチ表参道」の建築デザイン
デザイン・ジャーナル 2013.04.25
今月オープンした「oak omotesando」に、すでに行かれた方もいらっしゃると思います。丹下健三さんの設計で1978年に誕生したハナエ・モリビルがあった場所に誕生しました。
今回登場いただくのは、このoak omotesandoにオープンしたストアのひとつで、コーチのフラッグシップストアとなる「コーチ表参道」の設計に関わった建築家の重松象平さん。
OMA(Office for Metropoligan Architecture)のパートナーとして活躍する重松さんは、ニューヨークを拠点に世界各地のプロジェクトを手がける注目の建築家です。
OMAについては「フィガロジャポン」でもプラダのエピセンター(LA)オープン時に、その設計を手がけた巨匠レム・コールハースの取材にて、ご紹介したことがあります。
ストア外観。Photo: Courtesy of COACH
重松さんにもすでに「フィガロジャポン」の誌面で以前、「これからさらに注目したい建築家」として登場いただいたことがありました。現在はミュージアムや文化施設、世界的な芸術家のための施設などなど、複数のプロジェクトを手がけています。コーチ表参道のオープンにあわせて帰国していた重松さんに、今回の建築デザインについてうかがいました。
「まず、1941年に誕生したコーチの歴史をたどりました。コーチが最初に発表したコレクションは8色の財布ひとつでしたが、現在はひとつのコレクションで5000以上の商品を発表するほどブランドが多様化し、成長しています。そのように常に進化しているブランドにふさわしい環境とは何かを考えました」
「ブランド・リサーチの過程でコーチが初めてオープンしたショップに出会い、それに手がかかりを見出しました。木の棚がひとつとカウンターがひとつ。実にシンプルで機能的。そのようなブランドの持つ起源をできるだけ反映して、それをさらに進化させたいと思いました」
重松象平さんです。Photo: Noriko Kawakami
他のメゾンのストアデザインも手がけている重松さん。コーチらしさをどうとらえ、設計に反映させていったのかが、気になります。
「コーチのミッション・ステイトメントは、"マジック・アンド・ロジック"。論理的な構築から発して、魔法のように見たことのないものを生む、という考えです。それは、奇をてらわずに、最大限のアイデンティティをつくり出すという、実はとても難しい野心だと言えます。感覚的というよりもロジックに則ったデザイン、そのコーチ特有のバランス感覚から生まれる美しさを追求したいと考えました」
そのようにブランドを考察した結果、重松さんが提案したストアデザインのメタファーは、「ライブラリー」。
「図書館の空間は、多様な書籍を収める棚で構成されています。棚というユニットの組み合わせで様々なプログラムを整理し、同時に多様なプログラムを擁する空間をつくることのできるライブラリーというコンセプトは、幅広い商品を展開するコーチにふさわしいと考えました」
1階部分です。Photo: Courtesy of COACH
そのコンセプトがまずかたちとされたのは2012年11月、ニューヨークのメイシーズ ヘラルド・スクエアの改装にあわせてオープンしたコーチストア。L字型を描く巨大なアクリルのディスプレイが、ブロードウェイのエントランスに面する最も人通りの多い場所に設置されました。
そのショップを布石として、今回の新たなフラッグシップを「ライブラリー」というコンセプトで、表参道に計画することになったのです。表参道には様々なブランドのフラッグシップがひしめいています。伊東豊雄さん設計のトッズ、SANAA(妹島和世さんと西沢立衛さん)によるディオール、ヘルツォーク・ド・ムーロンによるプラダなどなど......。
「世界で活躍する建築家が様々なブランドのフラッグシップのファサードを手がけている表参道だけに、逆にファサードデザインの競争に安易に参加したくはありませんでした」と重松さん。
コーチ表参道、ファサードのディテール。Photo: Noriko Kawakami
「さらに言えば、できればそこに存在する問題点にもとり組みたかったんです。ブランド・ストアのデザインででは、実は建築家は外観は設計できますが、インテリアは他のデザイナーが設計する場合が多いのです。よって僕は、どうにかしてファサードと内装がまったく別のデザインで分断されてしまうことを避けたいと思いました」
「つまりはディスプレイとファサードを融合することによって、ディスプレイデザインの発想がそのまま外観や内部空間を構成するようにしたいと考えました。そのような意図のもとにコーチのディスプレイ棚のサイズや構造をユニット化し、それを増幅させることで空間やファサードをつくりあげています。結果として約200のディスプレイ・ボックスをタテ、ヨコに組み合わせています」
Photo: Courtesy of COACH
もうひとつのポイントは、階段まわりのデザイン。
Photo: Courtesy of COACH
「1階から2階への階高が6.5m以上もあるので、2階へ移動する間もディスプレイに囲まれたままで、なるべくシームレスにショッピングを続けられるという考えです。階段を囲む透明のディスプレイごしに見る店内は、通常とは違った奥行きを持っています」
Photo: Noriko Kawakami
店内からは表参道のケヤキの樹が目にでき、通りからは店内の様子を感じられるストア。日中はファサードにケヤキが映り込み、正面から見たときと斜めから見たときの発色も異なります。夜になればファサード全体が光を発しているように見えます。「ここで大切にしたのは、ブランディングを世界にコミュニケートする一貫としての建築であること」と重松さん。
重松さんの統括で様々なプロジェクトが進むOMAニューヨーク。今後の活動も気になるところです。
「建築家とは、公共の場をつくる作業に関わることができるというこが醍醐味だと言えます。また、ここまで多様化し、国際的になった社会とどれだけの接点をつくっていけるかが課題だと思っています。よって、建築の範疇を超えた領域でも、建築的思考を使って積極的に関わっていくような姿勢が、今後とても大事になってくると思います」
「僕は日本でいうといわゆる団塊ジュニアで、アメリカでいうとジェネレーションXです。個人主義的な時代の申し子と思われていますが、我々のジェネレーションだから達成できる公共性もあるはずです。そのように自分が属する特殊な背景や環境を充分意識しながら、建築を通して社会とたくさん対話していきたいですね」
期待の建築家によるストアデザインに注目しながら、コーチでのショッピングを楽しんでみてください。
Photo: Courtesy of COACH
港区北青山 3-6-1 oak omotesando
TEL 03-5468-7121
11:00〜20:00 休:不定休
http://www.coach.com
oak omoesando
http://oakomotesando.com

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami