マリメッコのデザイナーとしても知られる、
石本藤雄さんの展覧会「布と遊び、土と遊ぶ」

130925_design_01.jpgPhoto: Chikako Harada


Marimekko(マリメッコ)のデザイナーとして1974年から2006年まで活躍。ヴァンハタルヴィエ通りにあった当時のマリメッコ本社では、創業者のアルミ・ラティアとも働いていた石本藤雄さん。手がけたパターンはなんと300種類を超えるのだそうです。清楚な花々や風になびく草、クレヨンタッチの風景コレクション......石本さんデザインは今も大人気、ファブリックはマリメッコの最近のファッションにも登場しています。

130925_design_02.jpg昨年12月、スパイラルガーデンでの展覧会から。Photo: Tetsuya Fujimaki, Courtesy of SPIRAL


「石本藤雄のデザインは、徐々に使い手になじみ、親密な間柄を築いてゆくように考えられています」

マリメッコが25周年を迎えた1976年、アルミ・ラティアはそう記していました。
アルミはまた、次のようにも書いています。

「彼は二つの色彩世界を持っています。ひとつはブラック、ブラウン、グレーの色彩からなる世界。
もうひとつは鮮やかな純粋色からなる万華鏡的な世界。
Fuji が創造する世界は、厳しくて慎ましいと同時に、陽気で喜びに溢れているのです」 

1989年からは同じヘルシンキ市内にあるアラビア社のアート部門で、陶芸作品にも取り組んでいます。
昨年12月にスパイラルガーデンで開かれた日本で2度目の個展『布と陶 −冬−』でも、新作が多数披露されました(同展に先駆けて行われた石本さんのトークについての記事はこちらで)。
 
130925_design_03.jpgスパイラルガーデンでの展覧会風景。Photo: Tetsuya Fujimaki, Courtesy of SPIRAL


壁一面をうめつくす陶の花々。力強いフィンランドの大地を思わせる皿の数々。身近な風景に目を向け、さまざまな生命力をとらえた作品ばかり。石本作品の魅力です。

130925_design_04.jpgスパイラルガーデンでの展覧会風景。Photo: Tetsuya Fujimaki, Courtesy of SPIRAL


同展を機に発行された作品集『石本藤雄の布と陶』の原稿を書く機会をいただき、昨年秋、ヘルシンキで石本さんの話をうかがったことがあります。

幼少時代に始まり、学生時代の話や30歳のときにリュックひとつで海外に向かった話。長く暮らしているヘルシンキの自然について。そして、マリメッコ、アラビアでの制作について......。9月、初秋の陽ざしがさしこむアトリエやご自宅で貴重な話を聞かせていただきました。どれも忘れられない大切なお話です。

130925_design_05.jpg作品集『石本藤雄の布と陶』(パイ インターナショナル発行)。うつわは私が愛用している石本作品。青空とみかんの黄色......でしょうか。美しい色。幸せな気分になります。Photo: Noriko Kawakami


そのなかでも強く印象に残った一つが、幼少時代の話です。

石本さんが生まれ育ったのは愛媛県砥部町。山々やみかん畑、路地の草花が身近にあったのだそう。砥部といえば白磁に呉州青絵が施された砥部焼も有名です。近所の登り窯や煙突の風景も記憶にあるという石本さん。作家となって土に向かう現在と幼少時代の時間とが、ぐるりとつながっていました。

130925_design_06.jpgPhoto: Katsuhiro Ichikawa

130925_design_07.jpg石本さんの作品です。Photo: Chikako Harada


大切なその故郷で今週、待望の個展が開幕します。

世界的に著名な作家でありながら、日本で紹介される機会が限られていた石本さん。愛媛での作品紹介は初めてのこと。地元有志が中心となって企画し、実現した故郷での展覧会。愛媛県美術館をはじめ、砥部町や道後、3カ所での同時開催です。

みかん畑が広がる穏やかな気候の愛媛から、森と湖の国であり、雪の季節が長いフィンランドへ。そこで展覧会直前まで制作された作品を含む今回の帰郷展は、石本さんの原風景を感じながら作品を味わえるまたとない機会です。草花や果実を表現した陶のレリーフは、愛媛の陽ざしのなか、どのような表情を見せてくれるのでしょうか。私も楽しみでなりません。

130925_design_01.jpg今回の展覧会のメイン写真をもう一度。撮影されたのはアラビアにある石本さんの工房です。私がうかがった時も同じように、石本さん作品の花や果実が並んでいました。Photo: Chikako Harada


風に吹かれた樹々の葉がたてるサワサワという音が窓の外から聴こえてくるアトリエで、石本さんが語ってくれたたくさんのことばから、少しだけ抜粋しておきましょう。

「子ども時代の記憶は緑、そして水です。
池で泳いだり、雨が降った後、たんぼのみぞいっぱいたまった水に笹舟を浮かべて近所の子どもたちと遊んでいました。楽しかった記憶がその後の陶芸につながっています」

「アラビアで陶芸を学んでいた一年目の成果発表展のとき、陶の筏をつくったんです。展示の案内では水の上に草を敷き、そこに作品を置いた写真を撮りました。子どもの頃の水遊びのイメージでした」

「子ども時代のさまざまな体験が、今につながっていることを感じます。
たんぼに水をためる土手のなかに毎年、1本、すっと伸びる草がありました。いつも見ていたのは水田の土手に生える雑草。らせん状に花をつけるんです。みかん畑で樹々の下をうめ尽すように咲いていた小さな白い花もありました」

「......記憶のなかのこうした花々を今、陶芸で表現しています」



石本藤雄展「布と遊び、土と遊ぶ」

3会場とも会期:9月26日〜10月11日

[メイン会場]
愛媛県美術館(松山市) (新館2F 特別展示室)
Tel:089-932-0010
http://www.ehime-art.jp

砥部町文化会館(伊予郡砥部町)
Tel:089-962-7000
http://tobebunka.jp

茶玻瑠(松山市道後)
ホテル内にて展示と販売
Tel:089-945-1321
http://www.chaharu.com

展覧会公式facebook
https://www.facebook.com/FujiwoishimotoExhibitioninEhime

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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