浜辺の天才、テオ・ヤンセンと
愛すべきビーチアニマルたち

テオ様の「ビーチアニマル」が揃って日本に上陸中! なんてすてき。興奮します。

日本科学未来館で開催されている「Theo Jansen(テオ・ヤンセン)展~生命の創造」。
初期のものでは仰向けに寝ているときだけ脚が動くといった、ちょっとけなげな状態(「グルトン期」)から進化を遂げてきた、テオ様のビーチアニマルたち。試行錯誤の初期作品(生物)から世界初公開の最新作(生物)まで、進化の様子を一望できる嬉しい展覧会です。

「ビーチアニマル(砂浜生物)」。テオ様が生まれ育ったオランダの言葉では、「Strandbeest(ストランド・ビースト)」(ストランド=砂浜、ビースト=生物)。本人による造語で、彼が手がける「生物」たちを総称するネーミングです。

T1_kawa101224.JPG会場に入った瞬間、多数のプラスチック管! 普段から子どもたちの人気スポット日本科学未来館。しかも今は冬休み時期......多くの子どもたちに負けずに鑑賞したい展覧会。メカ好きの友人と一緒ならなお楽しく! そうでなくとも親切な専門スタッフが解説してくれます。Photos: Noriko Kawakami(会場他写真も)

何本もの足を持つ作品(生命)たちはそれぞれに個性豊かな姿をしています。プラスチックチューブやペットボトル、木材などよくある素材が用いられているにも関わらず、「生物」たちのかっこいいこと! 

彼らのいわゆる骨格や筋肉に相当するのはプラスチック管。神経は透明チューブ。肺や胃はペットボトル。モーター類は使われていません。食べた風はペットボトルの"胃"に蓄えられ、その風をエネルギー源として颯爽と動きだす、そう、彼らは"風食生物"。

T2_kawa101224.jpgビーチアニマルから、華麗にはばたく「Animaris Currens Ventosa(アニマリス・カレンス・ヴェントーサ)」1993年。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan

T3_kawa101224.jpgビーチアニマルから、どことなく愛らしい(いい人そうな?)「Animaris Ordis(アニマリス・オルディス)」2006年。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan

彼ら、アニマルたちはどんどん進化を遂げています。お亡くなりになった(壊れてしまった)アニマルは「フォシル(化石)」となってしまうのですが、すぐれたDNAが次の代にしっかりと受けつがれていきます。

そのなかでケガ(故障)の少ないアニマルや手間のかからぬ(メンテナンス最小限の)アニマルも誕生。触覚で障害物を察知すればちゃんと方向転回もできるし、水際を把握して、溺れぬように身を守る賢いアニマルも生まれています。

T4_kawa101224.jpgテオ・ヤンセン。1948年、オランダ、スフェベニンゲン生まれ。デルフト大学で物理学を学んだ後、1975年に画家に転向。ビーチアニマルは1990年から。以来、彼の人生はビーチアニマルともに。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan

T5_kawa101224.JPGその人生とは時にこんな......。マッチョな「Animaris Rhinoceros Transport(アニマリス・リノセロス・トランスポルト)」(リグナタム期、1997-2001年)と。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan

物理学、科学、エネルギー、生命、動き......ビーチアニマルは、様々な視点から生命とは何かを考えさせる存在でもあります。今回、13ものビーチアニマルたちが集う会場では、世界初公開の「シアメシス」をはじめとする新作が4体も。その一部のダイナミックな動きも、展覧会会場ではたっぷり堪能できるようになっています。

また会場では、「物理と芸術」の視点でビーチアニマルの生体を解明するコーナーや、「生命の本質」を研究するコーナーも。プラスチックチューブの組み合わせや動きに関する紹介もあり、テオ・ヤンセンの工房を模した一角では貴重な試作の数々も!

T6_kawa101224.JPGビーチアニマルの「理想的な脚の長さ」を研究したテオ様。1500本の脚の長さをコンピュータで解析、結果として13種類の長さを導きだしました。最新ビーチアニマルにも用いられている「13のホーリー・ナンバー(聖なる数)」、会場入り口で紹介されています。

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T8_kawa101224.JPG21世紀のダ・ヴィンチとも称される彼。海辺にあるスタジオでは日々こんな研究が。

物理学とアートの出会いが見せてくれる躍動の姿。テオ様はこの活動になんと20年も情熱を注ぎ続けているのです。会場に掲示されていた本人の言葉には「昼も夜も休むことなく取り組んできた」とありました。まさにその通りの毎日を送ってきたのでしょう。

T9_kawa101224.jpg世界初公開の最新ビーチアニマル。双子のビーストで最大サイズの羽根を持つ「Animaris Siamesis(アニマリス・シアメシス)」。家のよう。72脚、幅440cm、重さ240kg。アニマルたちは現在「セレブラム期」(2006年〜)。生きぬくためのより高い能力=知性も備え始めています。上は正面。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan(次も)

T10_kawa101224.jpg羽根を広げた「アニマリス・シアメシス」の横姿。今回の展覧会会場では11時から16時まで、1時間ごとのデモンストレーション時に歩く姿を目にできます。

ミュージアムショップでは最新DVD『テオ・ヤンセン ストランド・ビースト』も販売されています。ビーチアニマルの紹介はもちろん、『絵描きマシーン』の開発やデルフト上空に謎のUFOを飛ばしてしまった若き日のテオ様の貴重な映像も収録されています。

DVDのなかに、ぐっとくるテオ様の言葉がありました。

「(進化することによってビーチアニマルたちが)いつか、浜辺で自立して生き続けるようになってほしいと願っています。そうすれば私は浜辺で生き続けるのだという思いを抱き、安心して人生の終焉を迎えられます」

「私は浜辺で生まれたようなものですし、浜辺は私の人生にとって大きな役割を果たしています。子どものころいつも遊んでいましたし、今でも浜辺で遊んでいるのです......」

海を目に"遊び"ながらテオ様は、自分がいなくなってもビーチアニマルたちが自らの力で長く生きていけるようにと、日々研究に没頭していたのでした。改めて感動です。この言葉を耳にし、作品をまた見にいかなくてはと思いました。彼のこの言葉も胸に......。

「人生とは大きな遊びのようなものです」

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日本初公開の新種「Animaris Umerus(アニマリス・ユメラス)」。ペットボトルに蓄積された圧縮空気を筋肉に伝える空気の流れ(神経伝達)をシンプルに。筋肉も無駄を省いたシンプルな動きで、故障(ケガ)も少なく手間もかからぬビーチアニマル。Photo: ©Theo Jansen, Courtesy of Miraikan

「テオ・ヤンセン展~生命の創造~」
2月14日(月)まで(12/28〜1/1は休館)
http://www.miraikan.jst.go.jp/spevent/theojansen/
展覧会特設サイト
http://www.theojansen.jp/
Theo Jansen オフィシャルサイト
http://theojansen.net/top/

1月1日(土)NHK BSにて、
「風を食べる生物(仮)~生命を創る男 テオ・ヤンセンの挑戦~」
17:00~17:59。本展で来日した際のドキュメントシーンも

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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