国連「フィン・ユール・ホール」、
名作復刻と家具デザインコンペ

北欧家具に興味のある読者なら、その名を聞いたことがあることでしょう。デンマーク生まれの偉大な建築家、デザイナー、Finn Juhl(フィン・ユール)。

1912年生まれ、1989年に他界。来年2012年にはフィン・ユール生誕100年を迎えるのですが、記念すべき100周年を機に、とても興味深いプロジェクトが進んでいます。

ニューヨークの国際連合本部ビルにある信託統治理事会会議場(Trusteeship Council Chamber)に関する内容ですが、まずはこの会議場のご紹介から......。

1kawakami0830.jpg国連、信託統治理事会会議場。デンマークのデザイン変革期に重要な役割を果たしたフィン・ユールは、この会議場を手がけたことで、アメリカはもちろん、国際的な名声を得ます。Photo: UN Photo/YN. Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

信託統治理事会会議場をフィン・ユールが設計したのは1950〜1952年。天井のカラフルな照明からカーペット、ランプに至るすべてを彼が手がけたもので、人々には「フィン・ユール・ホール」と呼ばれ、愛されています。

2kawakami0830.jpg1945年に活動を開始した国際連合信託統治理事会は1994年に本来の業務をほぼ終了。その後は国連の会議場として毎年400件ほどの会議に使用されています。Photos: Andreas Vingaard. Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

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5kawakami0830.jpg空間の至るところに宿るフィン・ユールの美意識が。Photos: Andreas Vingaard. Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

国連本部ビルはただいま改修中。信託統治理事会会議場も竣工から年月が経っていることでの劣化は同様で、全面的なリノベーションが行われているところです。

そのなかで進んでいるプロジェクトが、2つ。ひとつは会議場の完成当時に使われていたフィン・ユールの椅子、モデル「FJ51」を復刻し、会議場で用いるというもの。

6kawakami0830.jpg「FJ51」の貴重なオリジナルスケッチ。Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

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8kawakami0830.jpg製作が進む「FJ51」。そのプロトタイプの写真をいち早く送ってもらいました。フィン・ユールらしい優雅な曲線。Photos: Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan


もうひとつは、デンマーク政府による家具デザインコンペ。

「デンマークの現代デザインも、このホールにとりこもう!」と、招待デザイナー5名の案から机と椅子のデザインを選出、製作する計画です。

「会議場の空間に調和し、あるいは、それを高めること」
「現代のデンマーク家具デザインを代表する作品となること」

こうした歴史的なデザインコンペの結果が、この夏、デンマーク・アート・ファウンデーションより発表されたところ。

見ごと優勝に輝いたのは、Kasper Salto(キャスパー・サルト)。Thomas Sigsgaard(トマス・シグスゴー)との共同参加でした。

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11kawakami0830.jpg今回のコンペに優勝したキャスパー・サルト&トマス・シグスゴーの提案。Design by Salto and Sigsgaard, Photos: Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

1967年生まれのキャスパー・サルト。Fritz Hansen(フリッツハンセン)社の家具をいくつも手がけるなど、デンマークを代表するデザイナーとして活躍中です。

かつてフィン・ユールがそうだったように、今回の快挙によってさらに注目を集めるにちがいありません。

ちなみにコンペ参加の他4名は、Christian Flindt(クリスチャン・フリント)、Mia Gammelgaard(ミア・ガメルゴー)、Hans Sandgren Jakobsen(ハンス・サンドグレン・ヤコブセン)、Søren Ulrik Peterson(ソーレン・ウルリック・ピーターセン)。

「FJ51」にあわせ、サルト&シグスゴーが提案する家具の試作も始まったところだと、先日、聞きました。2年後の完成を目標に進む会議場リノベーションの経緯については、ひき続き、このコラムでとりあげたいと思います。


キャスパー・サルト
http://www.kaspersalto.com/


Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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