SIMPLICITY「FOOD NIPPON 2014」
香川県 高松の食材、料理、お酒、うつわ。

前回に続き、SIMPLICITYクリエイティブディレクターの緒方慎一郎さんによる「食」の企画をお伝えします。緒方さんが企画する年4回のフードプロジェクト「FOOD NIPPON」の2014年度春のメニュー。緒方さん自ら手がける日本食店「HIGASHI-YAMA Tokyo」にて、3月15日まで味わえます。

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HIGASHI-YAMA Tokyoで。Photo: Noriko Kawakami


余談ですが、私が関わっているデザインに関する施設21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン内)では先日、米をテーマとする展覧会「コメ展」を開幕したところ。デザインと生活について考えるほどに、私自身、日常と自然の関係、なかでも食とうつわ、食と道具に関することがますます気になっています。奥の深い世界です。

コメ展は後日また紹介させていただくことにして、私も感動した「FOOD NIPPON 2014」の話を続けましょう。そのコンセプトは「日本食文化の再発見」。「FOOD」には「食」の意味はもちろん、「風土」の意味も込められています。「FOOD(食)を知ることは風土をひもとくことだと考えています」と緒方さん。

「日本は昔から、何百年も先を考えたものづくりをしていました。そうした日本のものづくりを現代にどう表現していけるのかと考え、昨年からFOOD NIPPONを始めました。各県でつくられている食材、酒、うつわ、それらとともにある郷土の食文化を、私たちなりのフィルターを通じて、各県と一緒に進化させていきたいと思います」

食のルーツを掘り下げること。日本の智恵や工夫を再編集し、進化させながら、現代の暮らしにつなぐこと。今回、2014年第一回〈春〉は「香川県 高松」。ランチコースとディナーコースの双方が用意されています。

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香川のお酒「リセノワール」を食前酒に。古代米でつくられているお酒。古代米の成分がピンクの色あいを生みます。Photo: Noriko Kawakami


香川、と聞いてワクワクするのは、美術やデザインでもすばらしいものがたくさんあるからです。丸亀で活躍した洋画家、猪熊弦一郎さん。高松市牟礼町にアトリエを構え、ニューヨークと香川を行き来していたイサム・ノグチさん。

香川と関係の深い彫刻家の流 政之さん。その流さんとの出会いをきっかけに高松を訪ねたジョージ・ナカシマさん。彼の家具を製造しているのは牟礼町の桜製作所です。また、1950年代竣工の香川県庁舎は丹下健三さんの設計......。最近では瀬戸内国際芸術祭に行かれた読者もいらっしゃるのではないでしょうか。

小豆島の醤油も有名です。私がうかがったメニューお披露目の会ではヤマロク醤油の五代目、山本康夫さんの話を聞きながら醤油を味わう時間もありました。山本さん、「本当の醤油を次の世代に残すために」と木桶仕込みの醤油にこだわっています。

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メニューお披露目の会では、山本さんの話を聞きながら醤油のテイスティングも。Photo: Noriko Kawakami


「日本の基礎調味料である醤油、みそ、酢、みりん、酒は、江戸時代まですべて木桶で醸造されていました。木桶を多く使ってきた味噌や醤油も、木桶を実際に使用しているのは生産量の1%未満になっています」と山本さん。

「2009年と2010年に私たちが新しい桶をつくったとき、醤油屋が新桶をつくるのは戦後初という状況でした。桶は一度つくると100年は使えるので、つくる人も減ってきていたのです。このままでは木桶をつくれる人がいなくなってしまうと思い、自分たちで木桶をつくるプロジェクトを始めました。大桶用のタガにする竹そのものも手に入らない時代です。私たちは幸いにして祖父が残してくれた竹で編むことができました」(山本さん)

興味深い話をうかがいながら、いただいたお料理の最初は、香川の野菜や海の幸が集まった「香川おいで盛り」。HIGASHI-YAMA Tokyoらではのうつわに盛られた姿が美しいこと。甘い金時人参、なんと50cmの長さにまで成長し、茎までしっかり味わえるアスパラガス、その名も「さぬきのめざめ」。どれも春の味覚です。

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「香川おいで盛り」。讃岐のこんぴら酒と呼ばれる金陵はじめ、香川のお酒とよくあいます。また、メニューお披露目の会ではジョージ・ナカシマの家具づくりの過程で生じる端材が箸置きとして登場しました。桜製作所の代表、永見宏介さんもこの日、家具づくりについてのお話をしてくださいました。Photo: Noriko Kawakami

「あん餅雑煮」は、餡(あん)のつまった丸いお餅が白みそ仕立ての雑煮になっています。そして鰆(さわら)の押し寿司「かんかん寿司」。木枠に木槌でくさびをうちこみ、具材と酢飯をなじませてつくる寿司で、木槌で打つときの「カン、カン」という音からの命名だとか。猪熊弦一郎さんやイサム・ノグチさんもこのかんかん寿司、大好きだったそうです。

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「あん餅雑煮」、上野剛児さんのうつわに盛られた「かんかん寿司」。食べやすい大きさのお寿司やうつわとの調和など、HIGASHI-YAMA Tokyo ならではの楽しみ方。Photo: Noriko Kawakami

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かんかん寿司はこうしてつくられます。Photo: Noriko Kawakami

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甘味には軽やかな「おいり」と讃岐ならではの和三盆。一和堂工芸の漆器で。Photo: Noriko Kawakami


高松に生まれ育ち、その魅力を執筆されてもいる桜製作所の永見さんは、かつて千 利休が「円座は讃岐に限る」と述べた円座(菅の葉を丸く編んだ敷物)の話もしてくれました。

自生していた菅が地元ではもう手に入らずに幻の技術となってしまっていたのだとか。現在、地元では、菊花型という独自の優れた技術を伝えるために、工夫して手に入れた菅で、制作が再開されています。

時代の変化のなか、環境や素材が変わったとしても、進化しながら伝えられていくものがある。すべて、日本の伝統や食文化を大切にしようとする関係者の心あってこそなのだなあと、この日も強く実感しました。そして香川は「島」の恵み。山と海の豊かな恵みがあります。瀬戸内の海や空と暮らす人々や、風土を大切に伝えていこうとする人々の存在。FOOD NIPPONは私たちにさまざまなことを教えてくれます。

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ディナーコース(香川おいで盛り、あん餅雑煮、かんかん寿司、穴子と豆腐の炊き合わせ、讃岐でんぶくの唐揚げ、讃岐うどん、甘味)。Photo: Courtesy of SIMPLICITY


SIMPLICITY「FOOD NIPPON 2014」
ディナーコース 7800円、ランチコース 3800円(税込、ドリンク料別)

次回〈夏〉は、6月2日〜14日「香川県 小豆島」。
秋と冬には北海道編が予定されています。

「HIGASHI-YAMA Tokyo」
http://higashiyama-tokyo.jp

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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