フィン・ユールの名作家具に出会う、
「The Universe of Finn Juhl」展

20世紀を代表するデザイナーのひとり、Finn Juhl(フィン・ユール)(1912年コペンハーゲン生まれ、1989年に他界)。生誕100周年を迎えることを記念し、各国でフィン・ユールの展覧会が予定されていますが、なかでも世界に先駆けた展覧会「The Universe of Finn Juhl」が都内で開催中。2月12日までです。

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F2.JPGユール家具の特色でもあるシルエットの美しさを伝える会場の様子。天井からは有機的なフォルムの家具パーツが。Photos: Noriko Kawakami

紹介されているのは約40点で、現在製造されている名作デザインと今後復刻される作品のプロトタイプ。ユールの家具が一堂に会した光景、やはり圧巻です。

F3.JPG独学で家具を学び、家具職人のニールス・ヴォッダーと名作を生み出したフィン・ユール。(会場での展示は現在製造されている家具)。実際に座って観賞できる貴重な機会。

F4.JPG右奥の一角でフィン・ユール邸の紹介。楽しく暮らすための実験の場として、ユール自ら設計した家です。写真手前、キャビネットや天井からの照明器具にも注目を。

会場では他に、コペンハーゲンにあるフィン・ユール邸の模型や図面も展示されています。さらに、ニューヨーク国連本部 信託統治理事会会議場(Trusteeship Council Chamber)の家具デザインコンペに関する展示も。

フィン・ユールがデザインを担当したことから「フィン・ユール・ホール」と呼ばれているこの会議場(1951年竣工)。老朽化が進んだことによる全面改修に際して行なわれたデザインコンペで、見ごと優勝したのが、Kasper Salto(キャスパー・サルト)とThomas Sigsgaard(トーマス・シグスゴー)でした。

この「デザイン・ジャーナル」でも、昨年夏、いちはやくコンペの速報をお伝えしていました。こちらでご覧ください。

F5.jpg二人が提案したデザインで、会議場の前方中央に設置される書記官用テーブルとチェアです。「長時間座っている仕事でもあるため、心地よい椅子にしたかった。シンプルなフォルムながらも、柔らかく、座りやすい、有機的な座面を考えました」と二人。 Design by Salto and Sigsgaard, Photos: Courtesy of Royal Danish Embassy in Japan

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F7.JPGコペンハーゲンにスタジオを持つサルト&シグスゴー。右がキャスパー・サルト(デザイナー)、左がトーマス・シグスゴー(建築家)。撮影中も二人のデザイン談義はなかなか止まらぬ様子で、楽しそうでした。

「デザインとは、常に吟味され、洗練されていかなくてはなりません。外観的な要素や美的な要素だけが優先されてはいけないと考えます」。熱く語ってくれるキャスパーとトーマス。せっかくなので、二人に質問を。コンペで優勝したフィン・ユール・ホールのための家具デザインについてうかがいました。まずはトーマスが答えてくれました。

「この会議場に対するフィン・ユールのデザインアプローチをしっかり解釈することから始めました。彼は建築家でデザイナーでしたが、ここにはそうした彼のアプローチが凝縮するように発揮されています。そのオリジナリティを大切に、既存の空間と調和するデザインであること、そのうえで新しいデザインであることなどを目ざしました」

「フィン・ユールの家具はリバースエンジニアリング......すなわち、分解しやすい点に特色があります。彼の家具で特に興味深いのは、動く身体を支える部分がどのようにつくられているか、ということ。また、各部分がどのような考えのもとに、どうまとめられているのか。椅子の形状を成立させる構造にも興味を持ちました」

F8.JPG会議場改修を機にユールの「FJ51」復刻が進行中。その試作品です。この椅子を始め、実はフィン・ユール家具の大半が日本でつくられています。ユール家具の製造・販売を行なうデンマークのonecollection(ワンコレクション)が各国の家具製造企業を調べた結果、質の高い製造を実現できるのが、有名ブランドの木製家具製造のみに専念している日本のある企業だったそう。この話には興奮しました。

では、フィン・ユールは二人にとって、あるいはデンマークの若手デザイナーにとって、どのような存在なのでしょうか。今度はキャスパーが答えてくれました。

「やはりグレートマスター、偉大なる師、です。クラフツマンシップに基いた彼のすばらしい家具は時を超えて人々に愛され、引き続き愛されていくことでしょう。また、フィン・ユールの活動のすばらしさとは、座り心地のよさを常に考えていたことです」

「彼と同時代のデンマークのデザイナーたちはそのことを必ずしも理解しておらず、ユールをアーティスティックな造形面を最優先する人物、ととらえていたようです。しかし彼は、機能面をないがしろにすることはなかった。そのうえで、ルールにとらわれることなく、自由な精神で仕事に向かいました。そのすべてが重要だと思います」

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F11.JPG展覧会会場から。洗練された色の使い方にも注目ください。

フィン・ユールの家具から最も好きなもの、興味があるデザインを挙げてもらうと、即座に「チーフティンチェアです!」(1949年)との返答が。二人とも同じ返答でした。「家にスケールモデル(小型模型)もありますよ!」。

「異なる要素を融合させるように一脚の椅子をまとめあげるということでは、きわめて建築的なデザインだと思います。家具製作の既成概念から、まさに自由になった発想です」

「この椅子は僕たちに多くのことを教えてくれます。ルールに縛られてはいけないということや、異なる要素を組み合わせる発想の大切さ。柔軟な姿勢でデザインに向かうことの大切さ......すばらしいデザインの見本です」

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F13.JPG「チーフティンチェア」。チーフティンとは酋長、族長の意味なんです......!

今回の展覧会のプロデューサー、Søren Ulrik Petersen(ソーレン・ウルリック・ピーターセン)さんも来日していました。

「フィン・ユール家具の特色は3つあると考えています。ディテール、シルエット、クラフツマンシップ。家具に触れてみることでフィン・ユール独自の家具の仕上がりを感じとれるよう考え、椅子やソファに座れる展覧会会場にしました」

F14.JPG 展覧会のプロデューサー、ソーレン・ウルリック・ピーターセン。SUP design主宰。

F15.JPG 自身のデザインに大切なのは「夢を描けるもの」とも口にしていた彼。SUP designの自信作「スティック・イン・ア・ボックス」は、料理から園芸まで自由に活用できる優れもの。「木を削っていた時に端材が魅力的に見えることがあり、2年を費やし開発しました」。ノルディックフォルム(リビングデザインセンターOZNE5F)で取扱い中。

「フィン・ユールの家具は美しく、やさしくて、人を包み込んでくれる」「見ごとな構造」「フォルム、ディテールに徹底してこだわったデザイン」......3人がそれぞれ語ってくれた言葉が心に残ります。

なめらかな曲線の肘をはじめ、磨き上げられたパーツのようなフォルムやフレームから浮遊するような座面の姿。異なる素材の調和と、優美さと軽快さとの絶妙のバランス......。 家具好きの人が最後にたどりつく家具、とも言われているフィン・ユール。彫刻的で濃密な美しさと座ったときの心地よさに、会場でぜひ触れてください。

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「The Universe of Finn Juhl」展
新宿パークタワー 1F ギャラリー1
2月12日(日)まで
http://www.ozone.co.jp/event_seminar/event/detail/1233.html

Salto&Sigsgaard http://www.saltosigsgaard.com/
SUP design http://www.sup.dk/


Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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