【医師監修】40代で受けるべき健康診断の追加項目は?
ドクターに聞いてみよう。 2021.04.09
増富健吉
4月に新年度がスタートするという日本の企業は多い。それにともなって勤務先から健康診断の案内をされることも。オプション検査がいろいろとあるけれど、その検査の必要性や何を選ぶべきかがわからない人も多いはず。そこで、国立がん研究センター研究所の医師、増富健吉先生に聞きました。
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Q 40代前半、女性です。健康診断、追加項目どれを受けるべきですか?
文/増富健吉(国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長)
まず、あまり知られていない事実を説明することからはじめましょう。
会社で毎年、春か秋に行う定期職員健診。正式名称、「定期健康診断」。これって、何の目的で行うかご存知ですか?みなさんの「健康を守る」ため? 実は本来の目的は違うのです。もちろん、本人の健康管理に役立ててもらうことは何ら問題のないことなのですが、本当の目的は「企業のために(もっと言えば「企業を守る」ため)」に行われているのです。
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もう少しわかりやすくいうと、「企業は、労働者を当該作業に就業させて問題ないか、配置転換などの必要な健康上の問題はないか」をみるために定期健康診断を行っているのです。この目的のために実施すべき項目は労働安全衛生法という法律によって決められているのです。
少し冷たい言い方になりますが、本来の目的は「労働者の健康管理よりも、むしろ企業を守るために必要な注意義務」のために行っているのです。こうした観点から、こちらの健診の重点項目は、心血管系に重大な問題がないか、眼や耳に作業が影響してないか等を、企業としては察知しておきたいわけです。労災、過重労働や過労死はいまでは企業存続を揺るがしかねない重要な問題へと発展することも多いですから。
では、それだけか? もうひとつ、多くの企業がこの「定期健康診断」にくっつけて、「住民検診などで行う対策型がん検診」も一緒に実施してくれています。こちらの大きな目的は、がんの早期発見。そうです、皆さんの健康のための検診です。国が認める、がん早期発見に役立つであろうと考えている検診。喀痰検査(肺)、便潜血検査(大腸)、胃のバリウム検査、子宮頸がん検査、マンモグラフィ(乳房)です。ここまでは、会社ないし地方自治体の公的予算で実施されているわけです。
さらに、最近では、これらに加えて、任意型がん検診項目を加えて実施する企業もあります。こちらは要するに人間ドック型のもので全額自己負担。たとえば腫瘍マーカーや場合によっては超音波エコー、画像で診断するCT、PET検査などなど。
こうやって考えていくと、健診や検診といえどもその目的も予算の補助の付き方も随分と異なるのですが、あまり知られていませんよね。
さてこのような背景で一体何をどこまで実施するのが適当なのか? 難しい質問ですが、最低限、会社で行う定期健康診断で大きな異常がないかはキャッチできるようになっています。それに加えて、喀痰、便潜血、子宮頸がん、乳がん検診は受けておくべきだと思います。私は個人的にはもうバリウム検査は受けずに毎年、胃カメラを自分でやっています(受けています)。さらに、便潜血の結果とは関係なく大腸内視鏡も1、2年に一度は自分でする(受ける)ようにしています。
「腫瘍マーカー、受けるなら何ですか?」とよく聞かれます。この質問は超難問です。正解はありませんが私は受けません。その理由は、がんの早期発見にはあまり役に立たないからです(ただし、男性の前立腺がんマーカーは50歳を超えれば受けておくべきだと思います)
病気の多くは、がんと生活習慣病を基盤として進む動脈硬化が、大きな柱であることを理解したうえで、健診や検診の受診項目を考えてください。さらには、健康の維持には、運動と食事と睡眠が基本であることは忘れないでください。
国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長。1995年金沢大学医学部卒業。2000年医学博士。2001-2007年ハーバード大学医学部Dana-Farberがん研究所。2007年より現職。日本内科学会総合内科専門医、がん治療認定医、日本医師会認定産業医。専門は分子腫瘍学、内科学。東京医科歯科大学大学院連携教授、東京慈恵会医科大学連携大学院教授、順天堂大学大学院客員教授。
photo : istock, texte:KENKICHI MASUTOMI
増富健吉
国立がん研究センター研究所 がん幹細胞研究分野分野長。1995年金沢大学医学部卒業。2000年医学博士。2001-2007年ハーバード大学医学部Dana-Farber癌研究所。2007年より現職。日本内科学会総合内科専門医、がん治療認定医、日本医師会認定産業医。専門は分子腫瘍学、内科学。東京医科歯科大学大学院連携教授、東京慈恵会医科大学連携大学院教授、順天堂大学大学院客員教授。