モデル出身の恵まれた頭身、日本人離れしたクールなルックス、時折覗かせる人懐っこい笑顔。天性の人たらしで、相手の懐にスッと入り込む。日本中の男が憧れる男の素顔をミラノで捉えた。
「もうすぐ夕暮れだし、この限られた時間ではベストな写真が撮れないかも......」
ミラノでの撮影開始前、フォトグラファーのアルベルト・ザネッティは不安を漏らしたが、上杉を目の前にすると表情が一変。対する上杉も撮影の合間に通りすがりの人と楽しく談笑する姿を見せるなど、撮影は終始和やかに進行。最終的には「彼ならいくらでも撮れそうだ」とアルベルトを喜ばせた。
誰に対してもフラットで飄々としていて、時に大胆不敵。天性の人たらしともいうべきそのキャラクターに、スタッフ全員が魅了された一日だった。
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タフな留学生時代、そして俳優を志すまで。
上杉に「自分の性格を表す、3つの言葉は?」と聞くと"凝り性"、そして意外にも"繊細""慎重"という答えが返ってきた。幼少期のことは「残念なくらい覚えていない」らしいが、彼の母が「蟻が歩いているのを見るのが大好きな子どもで、ひたすらその列についていく僕を追いかけたら、気付けば夕方の森の中にいたことがあった。電車にも夢中で、朝から晩まで新横浜駅のホームで新幹線を眺めていたり。あとは昔からキラキラしたものが好きで、ガラス職人か宝石屋になりたいと言っていた」と教えてくれたそう。
中学生になると外の世界をまったく知らないことに危機感を覚え、海外留学を決意。オーストラリアのウーロンゴンという聞き慣れない土地に身を置くことに。
「せっかくなら日本人がいない場所に行きたくて、調べてみるとそこが唯一の選択肢になっていました。演劇やダンスといった身体芸術で有名なハイスクール・オブ・ザ・パフォーミング・アーツという学校に入学したのですが、英語が話せない僕が入ったのは一般科で、当時から演劇を学びたいという意志があったわけではないんです。もちろん楽しい思い出もありますけど、日々、人種差別を受けていたタフな記憶の方が圧倒的に強くて。慣れない環境に『日本に帰りたい』って毎日泣いていました(笑)」
俳優の道を意識したのは帰国後、大学の友人の紹介でモデル事務所に所属してから。
「友人たちが就職活動に勤しむ中、僕はやりたいことが見つけられなくて。ひょんなことからモデルとして活動するようになり、それまでは想像もしなかった人前に立つという職業が急に身近なものになったんです。もともと映画が好きだったのと周囲の勧めもあり、俳優業に挑戦してみることに。いま考えると結構リスキーな決断ですが、当時は『やってみるか〜』くらいのお気軽精神でいたことを覚えていますね」
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並行していたアーティスト活動が、自らの支えであり居場所だった。
俳優業の話に移る前に、ヒップホップアーティストとしての顔に触れずにはいられない。2023年3月の日本武道館での単独公演を最後に解散したヒップホップクルー、キャンディータウンで、ホーリーQ名義で約10年にわたり活動。日本の音楽シーンを牽引した。ラッパーと俳優という極めて珍しい二足の草鞋を履いていた濃密な時間を、こう振り返った。
「現在の事務所のオーディション合格と時を同じくして、地元の友だちと結成したのがキャンディータウンです。いまほどジャパニーズヒップホップがメジャーではなく、CDも手売りの時代。アンダーグラウンドな活動が俳優業にプラスになるか確信が持てなかったのですが、その後音楽はストリーミング配信が主流になり、SNSの流行も手伝って僕らの存在が世の中に認知され始めました。お金のためではなく純粋にかっこいい音楽を追求するという信念を貫いたおかげで男性からの支持を得られたので、続けてきて正解だったと思います。それに、気心知れた友だちとつるんで自分の言葉で何かを発信できる居場所があるのは、俳優業が不安定だった当時の自分にとって本当に大きかった。解散はしましたが、みんな変わらず大切な地元の仲間です」
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強烈なハングリー精神ゆえの、俳優のやりがいと難しさ。
2015年にテレビドラマ「ホテルコンシェルジュ」で俳優デビュー。16年に放送されたNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」への出演を機に、上杉柊平の名が一躍お茶の間に広まった。「ありがたいことにデビューしてすぐに誰もが知るNHK連続テレビ小説という枠に参加させてもらえました」と語る作品の影響力の大きさはもちろんだが、上杉自身「完全に実力不足を痛感しましたね。『このままじゃダメだ』と悔しさをバネにできた俳優としてのターニングポイントです」
とも言う。
「それ以降は毎回自分なりにベストを尽くしていますが、まだまだですね。撮影中はとにかく必死だから、冷静に自分を見つめられるのはいつも撮影が終わってから。いまだに毎回実力不足だと感じるし、悔しさと反省でいっぱいです。そもそも自分の演技の最大値が向上しているのかもわからない。正直、演技をしている時は、常に『きっつ』って思ってます(笑)」
そんな彼の出演最新作、映画『八犬伝』が現在公開中だ。作中では物語を主導する八犬士のひとり、犬山道節を演じている。
「原作である『南総里見八犬伝』が完成したのは江戸時代。いまから約180年も前に書かれたことが信じられないほどのSF的世界観は圧巻です。いまでこそ日本のサブカルチャーは世界で評価されていますが、当時から日本独自のエンターテインメントが確立されていたのだと驚かされました。映画では著者である曲亭馬琴にもフォーカスしていて、ふたつの世界を同時進行で見せていく構成が新鮮で、2時間半があっという間に感じられるはず。僕はフィクションパートに参加しているので、ほぼすべてがCGを駆使したアクションシーン。仕上がりをイメージしながら演じるのが難しくて、完成後にあらためて拝見してまたもや反省しきり。もっと想像力を膨らませないといけませんね。俳優としてはまだまだ成長中です」
最後に、上杉柊平の性格を表すキーワードは"大胆""負けず嫌い""計算高い"だと感じた旨を忖度なく伝えると、「"計算高い"に関しては、頭によぎったのですが、ネガティブに捉えられるのではないかと言わずにいました。では、その3つに変えてください(笑)」と屈託のない笑顔を見せた。
1992年生まれ、東京都出身。モデルとして芸能活動をスタートし、2015年に俳優デビュー。HIPHOPグループ、キャンディータウンのHolly Qとして音楽活動も行うが、2023年3月に活動休止した。YouTubeチャンネル「上杉柊平の3rdPlace」も精力的に配信中。出演する映画『八犬伝』が公開中。
photography: Alberto Zanetti hair & makeup: Mio Iguchi interview & text: Kenichiro Tatewaki