時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、フェンディの時計の話をお届けします。
file : 047
FENDI
IShine
特許を取得したユニークなメカニズムで、ジェムストーンのカラーを3バリエーションから選べるのが特徴。ストラップに新色が加わったウォッチ「フェンディ アイシャイン」(SS×MOP×ホワイト・ピンク・レッドトパーズ/ブラックスピネル、φ33mm、クオーツ)¥363,000/フェンディ(フェンディ ジャパン)
魔法のように表情を変える、小粋なウォッチが意味するものとは?
2017年、スイスで開催された世界最大級の時計見本市、バーゼルワールド。プレスルームでは各国から集結したファッションエディターやウォッチジャーナリストが噂話に夢中になっていた。「もうフェンディの新作を見た?」「見たわ。驚いた」「時計っぽくないかも」「でも惹きつけられるわよね、あのデザインは」それが「フェンディ アイシャイン」のデビューだった。
ウォッチの右側面にあるリュウズは、実は時刻合わせのためにあるものではない。これを回すと、文字盤に12個あしらわれたジェムストーンが回転し、色が変わるのだ。このモデルは白くきらめくホワイトトパーズから、微妙なグラデーションを描き出すピンクとレッドのトパーズへ、そしてセンシュアルなブラックスピネルへとドラマティックに変化。組み合わせた新色ストラップは、ジェムストーンを引き立てるホワイトのパテントカーフレザーだ。
ローマに発祥したブランド、フェンディは伝統を大切にしながらも、そこに現代性をプラスし、トレンドをミックスするのが得意。マスキュリンとフェミニン、いたずらな無邪気さと凛とした気品、未来主義と古典主義──そんなデュアリズム(二面性、二重性)の表現を、これまで何度となくコレクションに織り込んでいる。女心というものは単純ではなく、ふたつの顔を持ったローマ神話の守護神ヤヌスのように、異なる表情をさりげなく使い分けていることを知り尽くしているのだ。
バーゼルワールドでセンセーショナルに登場して以来、高い人気を誇り続けるウォッチ「フェンディ アイシャイン」も、ブランドに刻まれたデュアリズムのDNAに通じる。時にはピュアに、時には華やいで、時にはシックに。秘められたさまざまな魅力を表現するのは、上質なジェムストーンたち。文字盤のセンターにはダイヤモンドのカットを思わせるマザーオブパール(真珠母貝)があしらわれているが、この部分にはフローレンティン モザイクという高度な技法が駆使されている。これもまた、遊び心とクラフトマンシップのデュアリズムなのかもしれない。
ちなみに、時刻合わせをどうやってするのかというと、時計の裏側に隠されたプッシュボタンで行う。そんなギミックが利いているのが、ちょっと時計っぽくない理由。でもいいのだ。フェンディは、伝統と革新の二面性を併せ持つブランドなのだから。
photography: John Chan, Shinmei (Sept), styling: Yuuka Maruyama (Makiura Office), text: Keiko Homma