時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーの話をお届けします。
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VAN CLEEF & ARPELS
Lotus Collection

指の間にモチーフが位置する人気のリング。パヴェや爪留めなどさまざまなセッティングを駆使してダイヤモンドの輝きを最大限に引き出している。リング「ロータス アントレ レ ドア リング、4フラワー」(WG×ダイヤモンド)¥2,943,600/ヴァン クリーフ&アーペル(ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク)
前向きに生きる力を与えてくれるマジカルな光の花、ロータス。
ロータスの花が生き生きと咲き誇る、とびきりエレガントで個性豊かなリング。「アントレ レ ドア」と呼ばれるこのスタイルは、ヴァン クリーフ&アーペルならではのもの。アントレ レ ドアとはビトウィーン ザ フィンガーという意味のフランス語で、指と指の間にモチーフが位置するように仕立てられたオープンリング。絶妙なバランスで手全体が華やぐこのスタイルは、もう40年以上も前に誕生したロングセラーなのだそう。
花びらが立体的に折り重なる「ロータス アントレ レ ドア リング、4フラワー」は、ダイヤモンドがひと際まぶしく煌めく魅惑のデザイン。花のひとつひとつに立体感や動きがあり、身に着けてみると手元がぱっと明るくなるよう。独特のフォルムなのに心地よく指にフィットする仕立てのよさもさすがだ。
ロータスはメゾンにとって大切なモチーフで、これまでにもさまざまなジュエリーやウォッチに使われてきただけでなく、2017年には大がかりなオートマタ(からくり時計)も作られている。それは大輪のロータスの花がゆっくりと開いては閉じ、かたわらで水の妖精がまどろむというスーパーラグジュアリーなもので、時計界の人々を大いに驚かせた。ヴァン クリーフ&アーペルにとって、清らかに咲くロータスは、クリエイティビティを刺激し、夢あふれる物語を紡ぎ出す特別なモチーフなのだ。
ロータスは美しさや純潔、満ち足りた人生のシンボル。夜になって花が閉じても、朝日を浴びてまた花開くことから、復活や再生、太陽の光の象徴にもなっている。オリエントのさまざまな国では聖なる花として大切にされ、女神にも捧げられるミステリアスな花。このリングを身に着け、手元でロータスが白く輝くのをそっとながめていると、光をいっぱいに浴びて何度でも咲き誇ろうというポジティブな気持ちになってくるから不思議だ。
ところでロータスは、日本ではハスとスイレンというふたつの名前で区別されている。どちらも午前中に満開になるけれど、水面の上に高く茎を伸ばして咲くのがハスで、花びらの形は丸くふくよか。スイレンは水に浮かぶように咲き、花びらはほっそりしている。
だからヴァン クリーフ&アーペルの「ロータス」は、もしかしたらスイレンなのかもしれない。それともメゾンの空想力が生み出した、しとやかで夢見がちな幻の花なのだろうか。

小さなパーツを複雑に組み合わせ、生命力を感じさせる優美なフォルムを生み出している。
*「フィガロジャポン」2022年2月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko