時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、シャネルのジュエリーの話をお届けします。
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CHANEL
Coco Crush
2015年の発売以来、高い人気を保ち続けるコレクションの新作。フェイスラインにフープが美しく寄り添うように計算されたデザインになっているのがポイント。フープ径36mmの絶妙なサイズ感で、ベージュゴールドが表情を明るく引き立ててくれる。イヤリング「ココ クラッシュ」(BG)¥731,500/シャネル(シャネル カスタマーケア)
マドモアゼルがこよなく愛した
優雅なモチーフを耳元に飾って。
マドモアゼル シャネルをシンボライズするアイコンモチーフは、ひとつやふたつでは終わらない。あまりにも有名なカメリアの花、リボン、コメット、香水、ラッキーナンバーの5、パール……。彼女が暮らしたパリ、カンボン通り31番地のアパルトマンも、お気に入りのものであふれかえっていた。輝くクリスタルのシャンデリア、ライオンのオブジェ、友人サルヴァドール・ダリが描いてくれた麦の絵、亡き恋人アーサー・カペルの思い出が残るシックなコロマンデル屏風。大好きなものに囲まれたアパルトマンでのひとときは、どんなにか心地よかっただろう。
ファインジュエリー「ココ クラッシュ」の新作フープイヤリングにあしらわれているのも、シャネルのアイコンのひとつ、キルティング パターン。マドモアゼルとキルティングとの出合いは1904年に遡るという。ある日訪れた馬術競技場で、騎手が身に着けていたキルティングジャケットの優雅なシルエットに魅せられ、20年にファッションのデザインに取り入れて以降、たびたびクリエイションに登場させている。55年には、あの伝説的なキルティングバッグも誕生。アパルトマンでキルティングのクッションに身をもたせかける姿が写真に残されていることからも、このモチーフを彼女がどれほど気に入っていたかがわかる。
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愛着のこもったさまざまなモチーフとともに暮らしたマドモアゼル シャネル。きっと彼女にはモチーフのパワーが必要だったのだ。旧態依然としたモードの世界と、自由のない女性たちの生き方に革命を起こすために。
クラッシュという英語はいろいろな使われ方をするけれど、熱を上げるという意味もある。だから「ココ クラッシュ」は「シャネルに夢中」という意味になる。メゾンのエスプリがぎゅっと詰まったジュエリーにぴったりのネーミングだ。イヤリングのフープはシャネルのイニシャル、Cをイメージさせる形になっていて、メゾン独自の18K素材、ベージュゴールドが使われている。言うまでもなく、ベージュはブラック&ホワイトとともに、シャネルにとってはエレガンスと控えめなラグジュアリーを表す重要なカラーだ。
このイヤリングの上手な着けこなし方はただひとつ、思い入れを込めて愛用すること。自分の大好きなものたちを心から慈しんだ、マドモアゼル シャネルのように。
photography: Jean Moral © Brigitte Planté-Moral
アパルトマンでのマドモアゼル、1937年。
*「フィガロジャポン」2022年5月号より抜粋
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko