時計とジュエリー、永遠のパートナーともなりうるこのふたつ。だからこそ、ブランドやそのモノの背景にあるストーリーに耳を傾けたい。いいモノこそ、いい物語があります。今回は、ディオールのジュエリーの話をお届けします。
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DIOR
MILLY CARNIVORA
幻想的な色彩で視線を惹きつける、甘く優しいフラワーモチーフ。
ディオール ファイン ジュエリーから新作「ミリー カーニヴォラ」ネックレスが登場。モチーフはメゾンの創設者クリスチャン・ディオールが愛した庭園、ミリー ラ フォレに咲く花々。けれどもそれは写実的というよりは、夢の中で花開いた幻想の花のよう。天然のジェムストーンにはないビビッドな色彩と、目の覚めるようなカラーコントラストが印象的だ。
このカラフルなラッカーは、ディオール ファイン ジュエリーのクリエイティブ ディレクター、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌのお気に入りのマテリアル。2007年に発表された「ベラドンナ アイランド」でも、マットや半透明、メタリックなど、質感の異なる豊かな色彩のラッカーやカラーストーンを駆使してセンシュアルな夢の世界を表現。オリジナルなスタイルを確立して国際的に高い評価を得た。ラッカーは熟練した職人たちが手作業でゴールドの上に塗り重ねているから、どこか絵画のような風合い。この独特のカラーリングは、ひと目でディオールのジュエリーであることをわからせてくれる。
インスピレーションの源となったミリー ラ フォレは、クリスチャン・ディオールの別荘がある北フランスの小さな村。彼はここで水車のある素朴なカントリーハウスを手に入れ、自然に囲まれて憩いのひとときを過ごしたそう。ヴィクトワールはミリー ラ フォレの庭園を何度も着想源にしてコレクションを生み出しているけれど、今回はきっと、この地に生い茂るさまざまな草花からとびきり華やいだ一輪を選んでジュエリーに仕立てたのだろう。
咲いたばかりのようにも見える花びら、チェーンにしっかりとからみつく蔓、ランダムにちりばめられたダイヤモンドの煌めき。花々を一層生き生きとしたものに見せているのは、正確無比なシンメトリーを巧みに崩した自由なデザイン。昔ながらのジュエリーの概念をこれまでにいくたびもくつがえしてきたヴィクトワールの美意識が、このネックレスには確かに息づいている。
薔薇に棘あり、とはよくある言い回し。美しい花は時に棘を持ち、毒を持っている時さえあるが、それは身を守るためなのだとか。ヴィクトワールのデザインする花々も、目を奪う魅力の背後に甘く芳しい毒を秘めているかのよう。その毒は人々を惹きつけるだけでなく、身に着ける女性を優しく守ってくれるのだ。
photography: Ayumu Yoshida styling: Tomoko Iijima text: Keiko Homma editing: Mami Aiko