世の薬となる音楽を作り続ける、素朴なスコットランド人。
トラヴィス|ミュージシャン
美しさの中に壮絶な世界観を感じさせるメロディと、イノセントでドラマティックなバンドアンサンブルで、これまで数多くの名曲を作り出してきた4人組トラヴィス。来年はバンド結成30年を迎える彼らだが、メンバー変更をすることなく、心に残る楽曲を届け続けている。
「素朴で謙虚なスコットランド人がずっと同じメンバーでやってこられたのは、お互い干渉しすぎず、でも必要とする時は助け合える関係を築いてきたおかげかな。これからもずっと一緒にいると思う。よく『バンドを解散する』なんて言うけど、バンドをなくすことなんてできない。だって、曲やアルバムはずっと残るものだからね」(フラン)
4年ぶり、9作目となるオリジナルアルバム。ソーシャルメディアでのやりとりをきっかけに完成したというバングルスのスザンナ・ホフスとの共演曲などを収録。バンドの魅力である、涙があふれ出るほどの美しさを放つ楽曲ばかり。日本盤は、ボーナストラック1曲に加えて、デモ音源を収録したディスクの2枚組仕様。『10 Songs』ワーナーミュージック・ジャパン ¥2,600
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現在は「曲を作る」行為が、ないがしろにされている。
ゆえに彼らは、デビュー当初から曲にこだわり続けていた。たとえバンドの存在が忘れ去られたとしても、耳に鮮明に残るような曲を。新作アルバム『10 Songs』でも、そこにフォーカスした楽曲を収録している。
「最近、『曲を作る』ことを大事にする人が少ないんじゃないかと思う。プロデューサーとシンガーはたくさんいて、それぞれに才能があって技量もあるんだけど、心の中に込み上げてくる想いを歌詞やメロディにして作り上げていくという過程が失われているように思うんだ。以前は、車の中でラジオから流れる曲に耳を傾けたいから、路肩に寄せて停めるということもあったんだけど、そうしてまで聴きたい曲がないんだよね。だから、これまで以上に曲を前面に押し出すのがいいんじゃないかと思ったんだ」(フラン)
その結果、フランの、そしてバンドの心模様がより鮮明に伝わる楽曲が揃った印象だ。特に「ヴァレンタイン」という曲は、エモーションを音にぶつけているようで、繊細な彼らの異なるワイルドな一面に触れたような気分にさせる。
「この曲は、とにかくアグレッシブな思いを表現したかった。メンバーにも『嫌いな人を思い浮かべて演奏してくれ』って頼んだよ。結果、善良で内向的なスコットランド人の僕たちが怒りを爆発させることができた(笑)」(フラン)
だが、全曲を聴き終えると、自然と救われた気持ちになる。
「僕たちの曲を聴いて癒やされた、という話をよく聞くよ。僕らの仕事がただのエンターテインメントじゃなくて、薬にもなっているんじゃないかな。いまの大変な世の中に、この作品が何らかの助けになってくれたらうれしいよね」(フラン)
メンバーは、フロントマンのフラン・ヒーリーのほか、アンディ・ダンロップ、ダギー・ペイン、ニール・プリムローズ。スコットランドにて1991年結成。99年『ザ・マン・フー』で全英チャート1位を獲得。以降、熱狂的な支持を集める。
*「フィガロジャポン」2020年12月号より抜粋
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interview et texte : NAOHISA MATSUNAGA