演技派女優・門脇麦が生粋のお嬢さまを演じて大号泣した理由。

インタビュー 2021.02.12

山内マリコ原作の『あのこは貴族』は、東京にはいろんな想い、いろんなクラスの女性たちが暮らしてるってことを、あらためて感じさせてくれる映画だ。東京生まれ、東京育ちの生粋のお嬢さま・華子を演じたのは実力派女優・門脇麦。繊細な受けの演技を通してキャッチした「自分とは生き方が違う他者との出会で知る、新しい自分の見つけ方」とは。

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「いいや。こんな自分でも」。時には自分を許す、いい意味で諦めることも、すごく大事だと思うんです

――『あのこは貴族』は「東京」という街が、自分自身を見つめなおす重要なファクターになっています。門脇さんにとっての「東京」は、どんな街ですか。

よく「東京の人は東京タワーにはのぼらない」って言いますけど、私も東京出身なので、正直、東京に対して思い入れはあんまりないんです。なので、美紀みたいに地方から上京してきた人の東京に対する想いみたいなのがものすごく新鮮に感じられて、ああ、そういうふうに映ってるんだって。映画に映ってる東京も、すごくきれいなんですよ。

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――地方からの上京組の美紀(水原希子)とは対照的に、門脇さんが演じる華子は、東京でも高級住宅地の松濤に生まれた生粋のお嬢さま。演じるうえで、どんなことを心がけましたか。

華子って一見受け身で芝居らしい芝居場がないので、どこにポイントを置いて演じるかというのを、まずすごく考えました。型にハマったお嬢さまにはしたくなくて、美紀と出会って、華子の中で少しずつ何かが動いていくプロセス、その段階を大事に演じようと思っていました。

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――美紀は、華子にとって婚約者の幸一郎とつきあっている女性。いわゆる恋敵なわけですが、予想を裏切る展開にハッとさせられます。

華子は、おもむろにお雛様展のチケットを美紀に差し出すんですよね。台本をいただいた段階で、ただ、ただ受け身のお嬢様なわけじゃなくて、彼女なりの芯ってものがあるんだって、なんとなくちょっと見えた気がしたのがあの場面でした。ふたりを引き合わせた逸子(石橋静河)の「こういう場面で、女性同士が必ず対立したり、マウントを取り合うように仕向けられるなんてアホらしいと思いませんか」みたいなセリフがあるんですけど、自分の中でなんとなくぼんやり思っていたことって、言葉にするとそういうことかとパチっときたんです。原作には山内マリコさんならではの、そういうものの見方や考え方がたくさん詰まっているので、せりふだけでどこまであの世界観が出せるのかなという難しさを感じていました。

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――門脇さん自身は、自分とは異なる世界観を持っている女性に対して、どんなふうに感じていますか。

今回、水原希子さんとご一緒してみて、私たちはいままでやってきた仕事の内容も違うし、彼女は自らSNSなどでたくさん発信してるじゃないですか。ものすごく闘ってる感じがするし、ちゃんと自分の言葉を持ってるところがカッコイイなと思います。

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――門脇さんも華子と年齢が近い28歳ですよね。自分の年齢について、いま思うことって?

まだまだですけど、自分なりにいろいろ経験してきて、いい意味で力みがなくなってきたかなと。少し前までは、仕事もストイックにやらなきゃいけない=楽しいことしちゃいけないみたいな、妙な固定観念があって、友だちともごはん行かないし、人とも会わない、悶々としてる自分がストイックに頑張ってる感じがいい、と思っていた時期もあったんですけど、意外とオフは外でみんなでアドレナリン出して遊んだほうが、パフォーマンスも高く保てるのではないかと思うことも増えました。逆に完全にオフにすると、もう1回スイッチを入れ直さないといけないから体力が要るのかもしれないと思うようになってます。

――意外とアウトドア派?

いや、ここ1、2年ですね。私、男の子の友だちのほうが圧倒的に多くて、釣り行ったり、山行ったり、川行ったり。昔からアウトドアはうちの両親も好きだったんですけど、外で遊ぶ友だちができてから本当によく遊ぶし、元気です。人生でいまいちばん楽しい。そういう自分の変化をものすごく実感しています。

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――じゃあ、男性に求めるものって?

放っておいてくれる人がいいです。お互いに個々でいる時にすごく充実した時間があって、一緒にいたらなお楽しいねって関係性がいいですね。男性も自分の趣味をちゃんと持ってる人がいいかもしれない。

――華子も自分の世界から一歩踏み出すわけですが、自分の殻を破るのに必要なものって何だと思いますか。

人との出会いで何かが変わるのって、その人の言葉が自分に響いたりとか、そういう積み重ねで少しずつ変わっていくものだと思うんですけど、自分がセンサーを高くしていないと、いい言葉もキャッチできないじゃないですか。でも、それができない時期もあるから、難しい。強いて言うなら、自分を許す、認める。いい意味で、自分を諦めるってことかなと。「いいや。こんな自分でも」って思えることがすごく大事だと思います。この映画も、自分をカテゴライズしてきた人たちの話で、地方出身だから、こういう階級だからこうすべきみたいに、自分で自分を縛ってしまっていることが殻を破れないことに繋がってると思うんですよ。自分をいい意味で諦めるって、すごく勇気が要ることだけど、大事なことなんじゃないかなと思います。

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――門脇さんもプロのバレエダンサーを目指していたのを、ある意味、諦めたことで、女優の道が拓けたわけですよね。

そうですね。確かにバレエをやっていたのは大きかったかもしれないですね。ちっちゃい頃から、若くして何者かになっていくお姉さんたちをずっと見てきたので、自分はバレエではプロになれないと悟った時、早く何者かにならなきゃという焦りがすごくあったと思います。

――この映画も、周りに求められる自分の役割に息苦しさを感じている人たちが、そうじゃない自分に目覚めていく過程が繊細に描かれていて、感情をあまり露わにしない華子の表情にぐっとくるシーンがいくつもありました。

ありがとうございます。結構悩みながら演じたので、試写で初めて観た時、いい映画ができたことがうれしすぎて、号泣したんです。岨手監督が原作のエッセンスを本当に凝縮させて映画に込めていて、ちゃんと着地してるって、ものすごくうれしくて、周りの人がドン引きするくらい泣きました。私にとっても、大好きな映画になりました。

――ところで、いま欲しいものは何ですか?

そうですね。竿ですかね。カワハギ用の竿が欲しい(笑)。

――最後に水原希子さんにひと言。

苔が好きって言ってたので、今度ぜひ一緒にキノコ狩りに行こうね。

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1992年生まれ、東京都出身。2011年、TV ドラマで女優デビュー。映画『愛の渦』(2014年)に主演、数々の新人賞受賞。『太陽』『二重生活』(ともに16年)、本作と同じ山内マリコ原作『ここは退屈迎えに来て』(18年)。『止められるか、俺たちを』(18年)で第61 回ブルーリボン賞主演女優賞受賞。2020年のNHK 大河ドラマ「麒麟がくる」にてヒロイン・駒役を務める。

『あのこは貴族』
東京生まれ、東京育ち、お金持ちの令嬢である華子(門脇麦)。富山生まれ、東京の名門大学に入学するも中退、東京で働き続ける美紀(水原希子)。幸一郎(高良健吾)を介してふたりは出会い、いままでとは違う人生に気付き始める……。
●監督・脚本/岨手由貴子 
●出演/門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ 
●原作/山内マリコ『あのこは貴族』(集英社文庫) 
●2020年、日本映画 
●124分 
●配給/東京テアトル、バンダイナムコアーツ 
●2/26(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、全国にて公開 https://anokohakizoku-movie.com 
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
●問い合わせ先:
sacai
tel : 03-6418-6877
www.sacai.jp

photos : DAISUKE YAMADA, stylisme : MEGUMI YOSHIDA, coiffure : SHUCO(3rd), maquillage : NAOKI ISHIKAWA, interview et texte : HARUMI TAKI

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