成功の裏にある家族の物語を丁寧に紡いで。
レイナルド・マーカス・グリーン|映画監督
テニス界のスーパー姉妹ビーナス&セリーナ・ウィリアムズを育て上げた父リチャードと、家族の感動ドラマを描いた『ドリームプラン』。ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞では、主演のウィル・スミスが主演男優賞、母親役を演じたアーンジャニュー・エリスが助演女優賞を受賞するなど映画賞レースを席巻中で、アカデミー賞候補としても有力視されている。監督を手がけたのは、初監督作『Monsters and Men』(2018年)でサンダンス映画祭審査員特別賞を受賞し、注目されたレイナルド・マーカス・グリーンである。
「主人公は綿密な計画を立てて姉妹を成功に導いた父親リチャードだが、これはウィリアムズ家族のスタートからゴールにいたるまでの旅路を描いたドラマだ。私の場合は野球だったけれど、子どもの頃にプロアスリートになるべく父親からつきっきりで指導してもらったという似たような経験をしているから姉妹には共感するし、尊敬している。家族の支えなしには到達できなかった目標だと思う」
単なるサクセスストーリーではなく、家族の物語としての視点が多くの観客から共感を得ている理由だろう。グリーンは、ビーナスやセリーナ、そして母親のオラシーンとも実際に会い、さまざまなエピソードを聞き出した。思い出話を加えることによって、映画に深みと親密感、何より信憑性を持たせたという。
「ビーナスは『セリーナは私の練習を見に来るために、自分の試合を欠場することもあった。私たちはそういう姉妹だったの』と言った。こういう姉妹の純粋な関係こそ、描かなければならないと思ったんだ。母親のオラシーンからは『私を絶対に弱い女には描かないで!』と念を押されたので、演出に気を配った。彼女は確かにリチャードを脇で支えるだけの女性ではなく、むしろ家族の柱ともなる存在だったんだよ」
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まだ長編3作目というグリーンにとって、今作の最大のアドバンテージは、主演にウィル・スミスを得たことだろう。敏腕プロデューサーとしても名を馳せるウィルは本作の製作者としても名を連ねているが、驚くほど献身的に映画に尽くしてくれているという。
「最初にウィルと会った時、彼の子育て、特に娘を育てることについていろいろ語ってくれたんだ。現場でも、娘役を演じた若い俳優たちにまるで本物の父親のように振る舞っていた。あれだけのスターだから、周囲はみんな緊張しがちだけれど、何を聞いてもいいという雰囲気を作ってくれる。私にとっても、魔法のような時間だった。この作品は、間違いなくウィルの代表作にできたと思うよ」
アメリカ生まれ。2018年、『Monsters and Men』で長編監督デビュー。長編2作目のマーク・ウォールバーグ主演『Joe Bell』(20年)、3作目の今作『ドリームプラン』に続き、現在はボブ・マーリーの伝記映画を準備中。
*「フィガロジャポン」2022年3月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta