クリエイターの言葉 「僕とホアキンの人生が含まれた物語」マイク・ミルズが映画『カモン カモン』に描き出したものとは?
インタビュー 2024.07.25
僕の人生も、ホアキンの人生も、含まれた物語。
マイク・ミルズ|監督、グラフィックアーティスト
父の人生にインスパイアされた『人生はビギナーズ』(2010年)、母と姉との関係を基にした『20センチュリー・ウーマン』(16年)と、自らの家族の物語をスクリーンに投影してきたマイク・ミルズ。気鋭の映画会社A24と2度目のタッグとなる『カモン カモン』は、アーティストのミランダ・ジュライとの間に一児をもうけ、父親になったミルズが映画作家として新たな視点を獲得した野心作である。
「僕の子育て体験からヒントを得て、この作品は生まれたんだ。正直なところ、映画作りと家族の関係性を語るのはとても難しい。本作も子どもとの経験が起点ではあるんだけど、脚本を一度書き始めたら独自の道を歩み始めた。さらにウディ・ノーマンやホアキン・フェニックスという役者が加わると、ふたりの人生とも交わり、さらに別の方向へと進んでいったんだ。とはいえ、僕の人生なしでは生まれなかった作品だから、まさにパラドックスだね」
---fadeinpager---
ラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)が甥ジェシー(ウディ・ノーマン)を預かることから始まる物語。デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズを巡るこの旅をモノクロで描いたのは、映画監督を志すきっかけとなったヴィム・ヴェンダース監督の『都会のアリス』にインスパイアされたからだ。
「『20センチュリー・ウーマン』を撮り終え、トランプが大統領に就任して、非常に落ち込んでいた時、最も好きな映画のひとつ『都会のアリス』を繰り返し観ていた。気分を上げるためにね。そしてなぜ僕は映画作りが好きなのか、目指したいことは何かを改めて思い出すことができた。シンプルで美しく、とてもパワフルだったよ」
いくつかの制作会社を回ったが、モノクロ映画だからと渋られた。しかしミルズにとって、本作をモノクロにするのは必然だった。
「モノクロ映像は、現実を寓話的に見せる。モノクロで作ることで、観る人をストーリーやアートの空間に誘ってくれる。それが寓話に該当する。僕たち人間は、世界をモノクロで見ることはないから、より映画的な世界を作り出せるんだ。僕のA24に対するプレゼンもこんな感じだったよ(笑)」
映画中、アメリカ中を回ってジョニーが子どもたちに行うインタビューは本物で、そのリアルな言葉にはっとさせられる。
「あれはホアキンが実際にインタビューしたんだ。確かに、この作品は僕にとって最も野心的な作品と言える。シンプルで小さくて親密なストーリーだけど、子どもたちの声を入れることによって広が
りのある作品にしたかった。ある種のマジックを試みたんだよ」
1966年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。グラフィックデザイナー、CM監督、MVのディレクターとして活躍。『サムサッカー』(2005年)で長編監督デビュー。ドキュメンタリー『マイク・ミルズのうつの話』(07年)では日本を舞台に監督。
*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta