舞台の上演に合わせて囚人が刑務所を......⁉ 驚愕の実話が映画に。

インタビュー 2022.07.22

1985年、スウェーデンで実際に起きた「塀の外」で芝居を上演する予定の受刑者たちがそのまま脱走した事件。現代のフランスを舞台に映画化した新作が、エマニュエル・クールコル監督の『アプローズ、アプローズ!』だ。監督の名に聞き覚えがないとしたら、彼自身がもともと舞台俳優出身であり、本作がまだ監督2作目であるからだろう。

サミュエル・ベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』を刑務所のワークショップとして囚人たちに教える仕事を担った売れない俳優エチエンヌが、予想に反して徐々に囚人たちと意気投合し、やがて各地で上演する許可を得るまでになる。演劇に生きがいを見出したかのように見えた彼らだが、しかし……。
ケン・ローチの映画のような社会性とコメディが交わり、人間味あふれる作品に仕立てたクールコル監督が、本作について語った。

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――実話をもとにしつつも、現代のフランスの刑務所に設定を置き換えた理由を聞かせてください。現代の社会状況を反映するのは、あなたにとって大事なことでしたか。

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刑務所から囚人が集団脱走! 驚愕の実話が実写化。©️2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms

まずこの実話はとても普遍的で、いつの時代にも通用すると思ったのです。それに実際、フランスの刑務所でもこうした演劇のワークショップを行っているところがあります。

いっぽう私にとっては、設定を置き換えることで、実在する人物からインスパイアされたキャラクターを私なりに作り直せることが魅力だった。観客がどこかに共感できるようなキャラクターにしたいと思いました。

――実際に刑務所でも撮影をされたそうですが、撮影はどのように進んだのでしょうか。また俳優たちとはどんな準備をされましたか。

私が撮影をしたモーショコナンの刑務所はとても協力的で、撮影はスムーズにできました。実はエチエンヌを演じたカド・メラッドが多忙で、彼のスケジュールが空くまで1年待っていたので、私はその間に囚人たちの活動を収めるドキュメンタリーを撮ったのです。それが刑務所の詳細や雰囲気を理解する上で、とても役に立った。囚人たちが実際に撮影を観察することはありませんでしたが、すでに知り合いになった囚人たちが、廊下を通り過ぎる時に挨拶してくれる、といったことはありました。

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――カド・メラッドはフランスでとても人気のある俳優で、エチエンヌのような売れない俳優のイメージとは遠いですが、彼のどんなところがこの役に合うと思われたのでしょうか。

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囚人たちに演技指導をする主人公エチエンヌを演じたカド・メラッド(左)。©️2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms

確かに、私も真っ先に彼のことが浮かんだわけではありません。でもフランスで放映していた『バロン・ノワール』という政界の裏側を描いたテレビシリーズに出ていた彼を観て、とてもエネルギッシュで役作りに長けた興味深い俳優だと思いました。彼ならエチエンヌのような役も演じられるだろうと思った。実際に彼も、エチエンヌのような困難な下積み時代を経験していると話してくれました。20歳ぐらいでエキストラとして演技を始め、それからいまの地位を築くまで20年ぐらい掛かっている。だからとても自然に演じてくれました。

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――その他の俳優たちもみなさん素晴らしく、特に彼らのアンサンブルに魅せられますが、リハーサルを徹底的にされたのでしょうか。

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囚人たちが舞台を作り上げていく過程も必見。©️2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms

リハーサルは3日間、劇場に集まってやりました。でも私は俳優たちの中から自然に生まれ出るものを大事にしたかったし、即興性も取り入れたかった。だからすべてを厳密に決めてしまうのではなく、脚本に沿った上で、時には俳優たちが発する、脚本には書かれていないちょっとした言葉使いなども取り入れました。
またこの実話において忘れてならないのは、囚人たち自身が演劇を楽しんでいたことです。それは、実際の演出家ヤン・ヨンソンに愛着を感じていたからだと思います。そうした関係を表現することは大事でした。

――ヤン・ヨンソンは撮影現場を訪れたそうですね。彼はどんな感想をあなたに語りましたか。

彼はまず脚本をとても気に入ってくれました。そして私がかなり自由に脚色したにもかかわらず、エチエンヌのなかに自分を見出すと言ってくれた。この映画をスウェーデンで披露した時、彼は観終わって目に涙を浮かべていて、それはとても感動的でした。

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――本作は社会性あふれるコメディで、とてもヒューマニティあふれる作品だと思います。あなた自身はどんな監督からこれまで影響を受けてこられたのでしょうか。

どんな監督に影響を受けたというより、いろいろな作品の場面が頭に残っていることが多いです。映画で言うなら『フル・モンティ』(1997年)や『リトル・ダンサー』(2000年)のようなイギリスの社会派コメディ。もちろんケン・ローチの作品も大好きです。いまのフランス映画なら、オリヴィエ・ナカシュとエリック・トレダノの作品など。コメディと社会性が合わさった質の高い映画でありながら大衆的で、多くの人に受け入れられるような作品に惹かれます。

――あなたの作品は決して大げさな娯楽作になることなく、リアリティに即していて、そこが感動できるのではないかと思います。

私は観客の知性を信じています。だからおおげさにする必要もないし、むしろ抑制して、リアリティから逸れないようにコントロールすることが大事だと思っています。そして常に希望があること。なぜならどんな気の滅入るような現実にも、つねに希望的な側面はあると思うからです。

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Emmanuel Courcol / 舞台俳優として活動後、2000年以降は徐々に脚本を書くようになり、フィリップ・リオレ監督の『マドモワゼル』や『灯台守の恋』などの佳作で高い評価を受ける。リオレ監督作品『君を想って海をゆく』(2010年)でセザール賞オリジナル脚本賞にノミネートされ、同年ジャック・プレヴェール脚本賞を受賞。15年にロマン・デュリス、グレゴリー・ガドゥボア、セリーヌ・サレットが出演する初の長編映画『アルゴンヌ戦の落としもの』を監督。

『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』
●監督・脚色/エマニュエル・クールコル
●出演/カド・メラッド、タヴィッド・アラヤ、ソフィアン・カメス、ピエール・ロッタンほか
●2022年、フランス映画
●105分
●配給/リアリーライクフィルムズ / インプレオ
●7月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほかで公開
©️2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms
http://applause.reallylikefilms.com

interview & text:Kuriko Sato

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