クリエイターの言葉 ハイエイタス・カイヨーテ、生を希求する強さを音に乗せてカムバック!

インタビュー 2024.07.30

生を希求する強さを音に乗せてカムバック!

ハイエイタス・カイヨーテ|ミュージシャン

2019年に続き2度目のフジロック出演を果たした豪州のバンド、ハイエイタス・カイヨーテ。前回は昼の出演だったが、今年は同じグリーンステージでも夜の7時からとあって、ネオソウルやジャズを基調としながらもほかのどこにもない彼らの魔法的な音楽がより映えた。クラシックからジャズへと進んだ鍵盤のサイモンが言う。

「どんな環境でもどんな時間帯でも僕らは演奏にフォーカスするだけだけど、確かに夜のほうが合う音楽だとはよく言われるね」

6年ぶりの新作『ムード・ヴァリアント』の変幻自在感が増したサウンド、声のミルフィーユを、今回のライブでは3人からなるコーラス隊を加えて開放的に表現。単なるレコードの再現ではなく、その場でのメンバーの演奏と歌の自由を許容する余白があり、それがライブの豊かさに繋がっているように感じた。メルボルンのジャズシーンでも突出した才能を持つベースのポールが話す。

「極力レコードのフィーリングに近づけたライブをしたいと思っているので、録音時と同じエフェクターを使ったりするけど、幾重ものレイヤーをそのとおりに表現するのは不可能だ。かといって即興がそこまで多いわけでもない。レコードにおける曲の構造を生かしながら、それぞれのソロ部分で自由度を取り入れるという感じだね」

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昨年リリースされた6年ぶりのカムバック作。2018年にボーカルのネイ・パームが乳がんを患って活動休止を余儀なくされたが、生を希求する強さが歌詞にも音にも表れ、見事に進化を遂げたアルバムとなった。フジロックでは、ネイは手術で失った片方の乳房を隠さない衣装で堂々と力強く生の喜びを表現していた。ブラジルの伝説的プロデューサー/アレンジャー、アルトゥール・ヴェロカイの参加も効いている。●『ムード・ヴァリアント』 ビート ¥2,420

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インタビューにこたえてくれたふたりは常に安定した演奏をし、ドラムのペリンは自由度高く叩き、ネイ・パームはそこでの感情をエモーショナルに歌にする。ライブを観ていて、そんな印象を受けた。

「うん。キミの観察眼はかなり正しいよ。ただ、ネイは感情任せではなく、けっこう曲に忠実に歌っている。そんなにアドリブを入れてくる感じではないんだ。それに対してどこまでも自由なのがドラムのペリン。いつかレールから外れて大変なことになっちゃうんじゃないかとヒヤヒヤするよ。彼がやりすぎて、演奏があらぬ方向に行きそうになった時に、ギュッと締めるのが僕の役割なんだ」(ポール)

「まあ、でも、毎回同じことをやっていてもつまらないってことはあるからね。ある程度は変化を楽しみたいし、観ている人もそのほうがワクワクするだろうから。大事なのはバランスかな」(サイモン)

そんなふたりに、ボーカルのネイの魅力についても聞いてみた。

「歌はもちろん、ファッションのプレゼンテーションも素晴らしいけど、僕は何より彼女の歌詞が好きだ。抽象的なところもありつつ革新的。あんな歌詞を書く人をほかに知らない」(ポール)

「ネイはとにかく耳がいいんだ。普通は聴き取れない音や声を聴き取る力がある。それと、物事を受け止める力だね」(サイモン)

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ハイエイタス・カイヨーテ/HIATUS KAIYOTE
2011年、オーストラリア・メルボルンで結成。メンバーは、ネイ・パーム(ボーカル、ギター)、ポール・ベンダー(ベース)、サイモン・マーヴィン(キーボード)、ペリン・モス(ドラムス)。今年、フジロック来日を果たした。この後はアメリカ、ヨーロッパでツアーを行う。

*「フィガロジャポン」2022年10月号より抜粋

text: Junichi Uchimoto

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