純粋な祝福にあふれた私だけのユートピアを歌う。
ビーバドゥービー|シンガー
現バンドメンバーとの一体感が巨大なエネルギーを生んだ、コーチェラフェスでのパフォーマンスも大好評。6月3日に22歳になったビーバドゥービーは、Z世代のリアルを歌うインディーズ界のニュースターから、より幅広いリスナー層の心を掴んで次代を担うポップスターへの階段を勢いよく駆け上がっている。2020年のデビュー作『フェイク・イット・フラワーズ』は、90年代のオルタナロックに対するオマージュがちりばめられたものだったが、ニューアルバム『ビートピア』は、強度のあるバンドサウンドの曲とクラシックなシンガーソングライター的アプローチの曲とがいい塩梅で共存。伸び伸びと自由に作ったことのわかる風通しのよさがある。
「今回は、自分のやりたいことはなんだってできるという感覚があった。だからロックソングを作りたくなれば作り、バラードを作りたくなれば作り、ヒップホップやジャズを作りたくなれば作るというふうに、ジャンルなんて一切気にしなかった。前作は、もっとポップロックに縛られていた。ライブで演奏することを前提に作っていたから。でも、今回はそういうことも意識していなくて、その自由が作品の多彩さに繋がったんだと思う」
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ビーバドゥービーの思い描くユートピア。それを表現したので『ビートピア』。では、彼女にとってのユートピアを言葉にするなら?
「純粋な祝福と、ハピネスと安らぎのある場所。自分が何をどう感じているか理解でき、周りのすべてに愛と思いやりを持って接することのできる場所。実は、7歳の頃からそんな理想郷をイメージしていて、当時それを絵に描いたものがポスターになったんだけど、学校の先生とクラスメートにゲラゲラ笑われ、からかわれたの。それで、ビートピアの話はもうしない、なかったことにしようと決めたんだけど、時間が経って、いままた向き合うことができた。ジャケットの絵はDashaという大好きなアーティストにイメージを説明して曲も聴かせて、描いてもらったもの。妖精、モンスター、友だち、動物、植物と、全部が共生している世界。子どもの頃に持っていたそういうイメージ、ひいては自分自身をちゃんと受け入れて生きていこうという決意を、このアルバムで表現したかった」
ソングライティングのみならず、歌唱表現も豊かさが増した。
「前作はアルバム全体で同じ歌い方をしていたけど、今作では曲ごとのメロディや楽器の音色に合う歌い方を意識した。不安感を漂わせて歌った曲もあるし、ロックっぽく歌った曲もある。それができて、前よりボーカリストとしての自信がついた感じがする」
2000年、フィリピン・イロイロ市生まれ。3歳でロンドンに移り住む。ビートリス・クリスティ・ラウスのソロプロジェクトで、2019年、最初の楽曲「Coffee」がヒットした。8月にSUMMER SONIC 2022で待望の初来日を果たす。
*「フィガロジャポン」2022年8月号より抜粋
text: Junichi Uchimoto