謎めいた男女を描く映画『別れる決心』、パク・チャヌク監督の鮮やかな企みとは?

インタビュー 2023.02.17

究極のロマンスを創作した、一筋縄でいかない男。

パク・チャヌク|映画監督

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「ファムファタール(運命の女性)と呼ばれるような女性に、私自身は会ったことはありませんね」

そうポーカーフェイスで答えるのは、韓国の巨匠パク・チャヌク。

『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリを獲得して以来、受賞を重ね、『イノセント・ガーデン』でハリウッドにも進出した韓国映画界きっての鬼才だ。英国アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『お嬢さん』から6年ぶりの新作は『別れる決心』。カンヌ国際映画祭の監督賞をはじめ、韓国でも映画賞を軒並み受賞し、示唆に富んだ台詞も人気を呼んで、本国で社会現象を巻き起こした。

「『別れる決心』はフィルムノワール的なアプローチで始まります。このジャンルにはファムファタールと呼ばれる強い女性がつきものなので、観客はヒロインが登場すると″彼女はファムファタールだ〟と思うでしょう。でもストーリーが展開していくにつれて、“彼女は悪女なのか? そうでないのか?”と、観客は混乱するはず。このフィルムノワールの概念を使って、ちょっと遊んでみようと思いついたのです」

悪女か、聖女か。観客に見方を委ねるヒロインには、『ラスト、コーション』で注目を浴びた中国女優タン・ウェイを抜擢した。

「タン・ウェイはどこか遥か遠い昔に生きているような、いまの時代の道徳を超越している人のように見える。彼女のそういった側面が、今回のヒロインにふさわしいと感じました」

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エリート刑事が登山中に転落死した男の捜査を始める。犠牲者の妻として現れたのは、韓国へ密入国後に出入国管理局職員だった男と結婚した中国出身の女性。刑事は女性を取り調べるうちに、原子力発電所で働く科学者の妻とは対極の混沌とした魅力から目を離せなくなってゆく。彼女もまた、彼の視線を意識し始めて……。●『別れる決心』は全国にて公開中。© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

物語の発端は、出入国管理局に勤める男性の遺体発見。『殺人の追憶』のパク・ヘイル演じるエリート刑事は、夫の死に驚く様子のない若妻を不審に思うが、彼女にはアリバイがあった―。監視、聴取する側・される側の視線が交錯し、サスペンスがロマンスと溶け合ってゆく。

「刑事が女性に尋問する時、この男女の間では激しい恋の駆け引きがなされている。また、刑事が女性を監視する時、正当な捜査であっても、私情が絡む男の行為はストーキングとも見え、観客は居心地の悪さを覚えるはずです。ところがこの女性は、刑事の視線を意識し、頼もしい刑事に見守られる喜びまで感じている。物語を描くに当たって、捜査する過程と恋が芽生えてゆく過程のふたつがぴったりと重なり合うことを目指しました」

めくるめく映像とともに、観る者にさまざまな解釈を許すミステリーロマンスを誕生させた鬼才。その裡に隠された偏執的とも言える表現の謎。それを解き明かすのは容易ではない。

【合わせて読みたい】
▶︎RMがリピ観した傑作『別れる決心』について。

CHAN-WOOK PARK/パク・チャヌク
1963年、韓国・ソウル生まれ。92年に監督デビューし、『JSA』(2000年)で当時の本国の歴代興行記録を更新。『復讐者に憐れみを』(02年)『オールド・ボーイ』(03年) 『親切なクムジャさん』(05年)の復讐三部作で各国映画祭を席巻。ポン・ジュノ監督作『スノーピアサー』(13年)等、プロデューサーとしても活躍している。

text: Reiko Kubo

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