RMがリピ観した傑作『別れる決心』について。

どうしてこんなに何度も「Decision to Leave」を見てしまうのだろう――。

その字幕を読んだ時、ドキっとしたことを覚えている。22年10月、BTS釜山ライブの前に、彼らのドキュメンタリーフィルムが何回かに分かれて配信された。その映像の中で、RMことキム・ナムジュンが街を歩いている映像のところにかぶせられていた字幕だった。22年6月に、衝撃の告白があった飲みライブが配信され、それを見てBTSのメンバーが離れ離れになってしまうのではないか、と少しでも不安に感じた人なら「Decision to Leave」という言葉自体に胸を突かれたはず。
でも、あ!そうか、と気づいた。カンヌ国際映画祭で監督賞をとった『別れる決心』(英題 Decision to Leave)をリピート鑑賞している、ということだ、と。
本作、とりつかれること必須と私も感じた。

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視線は本作のキーワード。見られること・見ることがふたりの距離感と深く結びつく。

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『別れる決心』は、『オールド・ボーイ』『渇き』『お嬢さん』などを手がけた韓国のパク・チャヌク監督作。某雑誌に映画エッセイの連載を持っていた稲垣吾郎さんが、韓国映画の極が振り切れているようなところがすごいと思う、と以前インタビューした時に話されていたが、パク・チャヌク監督は、そんなふうに受け止められる韓国映画の特徴を世界に向けて強く発信した代表でもある。人間の性(さが)を深く掘り、執念や執着のありようをスタイリッシュに映像化する。
その演出ばかりに観る側の気持ちが持っていかれてしまうことも多いのだが、『別れる決心』を観た直後、最初に感じたのは「究極のロマンティシズム」だった。

【関連記事】謎めいた男女を描く映画『別れる決心』、パク・チャヌク監督の鮮やかな企みとは?

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韓国に密入国し、その時に出会った出入国官庁に勤める年上の男性と結婚した中国人女性ソン・ソレ(タン・ウェイ)。彼女の夫が山で事故死することが物語の始まり。犯人を捜す几帳面な刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、ソン・ソレが実は犯人なのではないかと目星をつけて捜査を進めていくが、ふたりの間には、微細ながら徐々に感情の変化が生まれていく。

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『ラスト、コーション』出演の時から、選択肢のない生き方の女性を演じて極まる女優だったタン・ウェイ。彼女が演じた介護士という役の素朴さも、本作の深みを増す要因に。

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男女の駆け引きがあるものの、ふたりの生きざまや心情がマジメに必死すぎて、「恋愛」のゲーム性はむしろない。でも、その描き方により、かえって惹かれ合う者たちの「避けてはとおれない感情」の深さが物語られていて、観ているこちらも揺さぶられる。
あくまでも紳士に向き合ってくる洗練された佇まいの刑事と、どこか大地の匂いがするような素朴な美しさを持つソン・ソレ。互いの意図を探り合いながら、自分の予想が当たってなければいいのに、という諦観を醸してるところが切ない。そんな中で2つめの殺人が起きる。戻れないところまで心の距離を近づけてしまった男女の行く末はいかに・・・・・?

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以前、ソウルを訪れて公開初日の映画を劇場に観に行ったら、パク・ヘイルが舞台挨拶に登場するという幸運に恵まれた。『殺人の追憶』の時から素晴らしい俳優だったけれど、『別れる決心』の彼は最高。作品に愛される役者だ。

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編集がほぼ時制どおりなのにもかかわらず、とてもわかりにくい映画だ。過去と現在の映像の色調もあまり変化をつけていないので、時間の流れもフラットに感じる。おそらくそれは、パク・チャヌク監督の意図だったのじゃないか、と思っている。あえて、わかりやすくしない、霧の中で迷子になるような感覚を観客に与えたかったのだろうか。
だからこそ、何回も観たくなる。エンドロールになっても、ソン・ソレの身のしまい方の意図は明確にはわからない。ソン・ソレの行動に振り回されながら危ういバランスを保ち、標準的な生活のありようにどこかで虚しさを感じ、妻にもそれを気づかれてしまう刑事ヘジュン。
男女(というか惹かれ合うふたり)の中にある矛盾に満ちた感情に対して、意識的であればあるほど、リピ観したくなる映画だ。
どうしても安らかには得られないものに対して、どう接するか?
諦めるのか、手に入れられるところまででよしとして手に入れるのか?
絶対に手に入れるために邁進するか?

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指輪はセリフに頼らずに関係性を伝える大事な小道具だと映画を観ていて常々感じる。

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2022年のベスト作品を選ぶ企画は、世界各国、批評家や映画団体や映画アプリなどで行われているが、『別れる決心』と『RRR』が軒並みアジア圏の映画では10位以内に入っているケースが多い(低い順位でも15位くらいまで)。
ざわざわさせられる映画がめっきり少なくなった。エンタメ性もありながら、考えさせられてハマる、ざわざわさせられる映画とは、そんな映画のこと。解釈したくて、創りての真意に近づきたくて、何度も観てしまうRMに共感する。
超絶的にロマンティックな世界観だと思った。

『別れる決心』
●監督・共同脚本/パク・チャヌク 
●出演/パク・ヘイル、タン・ウェイほか 
●2022年、韓国映画 
●138分 
●配給/ハピネットファントム・スタジオ 
●2023年2月17日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開
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編集KIM=編集長森田聖美 2024年よりフィガロジャポン編集長。フィガロ歴約30年。旅、ファッション、美容、カルチャーなど、現場時代はマルチで担当。多趣味だが、いちばん大切にしているのは映画観賞。格闘も好きでMMAなどよく観戦に行く。旅は基本的にひとりで行くのが好み。チミーグッズをこよなく愛する。

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