時代が変わっても、変わらないものを見つめて。
フェニックス|ミュージシャン
「ロックダウン以降、今回は久しぶりの来日になったけれど、特に変化を感じることはなかったな。確かに空きテナントが増えた印象はある。でも、東京の街や人の熱気はそのままという感じだね。先日の公演では、デビュー当時から僕らのことをサポートしてくれる人はもちろん、最近聴き始めてくれたような若いリスナーの姿も目立っていたよ。とてもよい循環が起こっていてうれしかったね」
時代を先取った洗練されたスタイルと、聴き手を心地よくさせる特別なサウンド。フェニックスは、結成してから約25年、世界を魅了し続けている。フロントマンであるトーマス・マーズは、バンドの関係性も変わらないまま、ここまで辿り着いたのだと語る。
「僕らは10歳頃からの知り合いだからね。30年以上も関係が続いているし、いまでは家族同然なんだよ」
しかし、この5年の間には、2009年に第52回グラミー賞で最優秀オルタナティブロックアルバム賞を獲得した『ヴォルフガング・アマデウス・フェニックス』のプロデュースを手がけた盟友フィリップ・ズダールが突然この世を去るという出来事もあった。
「いまだに彼の不在を受け止められない自分がいる。だけど、彼を送る会は素晴らしいものだったよ。フランスのあらゆる芸術家たちが集い、社交場のような雰囲気だった。彼がいかに偉大な仕事をしてきたのかを痛感したし、彼の残した遺志を引き継がなくてはいけないとも思った。最新アルバムにはそんな思いも込めているんだ」
---fadeinpager---
新作の『Alpha Zulu』は、ルーヴル宮殿内のパリ装飾芸術美術館でレコーディングされた作品だ。ロックダウン中の誰もいない美術館という特別な空間で完成させたものだが、「コロナ禍でさまざまな芸術にじっくり触れる時間があったからこそ、表現できた音があると思う」と語る。そんなレコーディング背景もあってか、爽快な風が吹き抜けるような印象ながら、クラシカルで厳かな雰囲気も漂うサウンドに仕上がっている。
「僕らは、ヴェルサイユというフランスでも宗教色の強い場所で育った。だからこそ、できるだけそんな色を排除したいという思いで楽曲制作をしているんだ。サウンドを通じて、自分たちだけの神話を探しているし、これからも良い意味で自己中心的に自分たちの信じるものを追求していきたい。そんな僕たちの姿勢を自然に受け止めてくれるリスナーが多いことは自信になるね」
時代が変わっても、変わらない関係性で自分たち独自の道を歩く。そんな彼らだからこそ、長く愛され続けるのだろう。
フランス・ヴェルサイユ出身。メンバーは、トーマス・マーズ(V)、デック・ダーシー(B)、ローラン・ブランコウィッツ(G)、クリスチャン・マザライ(G)のメンバーで、2000年にデビュー。今年の3月に来日公演を果たしたばかり。
*「フィガロジャポン」2023年6月号より抜粋
photography: Kazumichi Kokei text: Takahisa Matsunaga