俳優たちと一緒に、映画制作という旅をする。
ウェス・アンダーソン|映画監督
ウェス・アンダーソンは独自の世界観を構築し、作家性を自由に発揮できているという意味で、最も成功している監督だ。そうしたカリスマ性のある監督に俳優は憧れる。最新作『アステロイド・シティ』には、ジェイソン・シュワルツマンやティルダ・スウィントンなどの常連に加え、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、マーゴット・ロビーといった主役級の約20名が顔を揃えた。第76回カンヌ国際映画祭で行われたワールドプレミアは壮観だった。
「私にとって映画制作の魅力のひとつは、間違いなく俳優たちと一緒に時間を過ごすことです。彼らとどんな感情の旅にでるのか。それを経験することこそ、私にとっての映画の醍醐味。撮影中は俳優たちと長いテーブルを囲んで、一緒に食事をとりますよ」
50年代のアメリカを舞台とした『アステロイド・シティ』にはさまざまなこだわりが詰め込まれており、ウェスの頭の中を覗くようでもある。今作で描かれるのは「ジュニア宇宙科学賞に輝いた5人の天才的な子どもとその家族が、架空の砂漠の街アステロイド・シティにやってくる」ところから始まる新作演劇の物語だ。そこにさらに、舞台演劇の裏側をテーマにしたテレビ番組についての物語が重なっていく。舞台、TV、映画という3つのメディアを使った、ウェス流のパフォーマンスアートへのラブレターでもあるようだ。
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「僕にとって映画のスタートとは、脚本を書き始めることなのだけれど、今回はいくつかのアイデアがあった。まず、(共同脚本家の)ロマン・コッポラと私は、ジェイソン・シュワルツマンのために、彼がこれまでに演じたことのないような役を書きたかったんです。彼は私の初期作『天才マックスの世界』で主役を演じてくれた。あれから26年経ったわけだけれど、それでもジェイソンとの親密な付き合いをしています。50年代のニューヨークの劇場という設定にも興味がありました。ブロードウェイの黄金時代です。脚本はまさにパンデミック中に書いたのですが、アステロイド・シティという閉ざされた街の設定は、ロックダウンを経験していなければ生まれなかった。脚本はいつも白紙から始める即興のようなものだから、実生活の何かがトリガーとなって、いろいろなものが滲み出てくる。もちろんその後、推敲を何度も重ねて練り上げていきます」
コロナ禍の影響で、スペインのチンチョンの郊外に、50年代のアメリカの砂漠の街のセットを建てて撮影された。その隔離された環境が作品に好影響を与えているのは一目瞭然、パンデミックも味方につけるとはまさに無敵だ。秋には次作の撮影も始まる。
1969年、テキサス州ヒューストン生まれ。96年に『アンソニーのハッピー・モーテル』で長編監督デビュー。『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)が大ヒットし、アカデミー賞9部門にノミネート、ベルリン映画祭で審査員銀熊賞を受賞。
*「フィガロジャポン」2023年10月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta photography: Kazuko Wakayama