クリエイターの言葉 「料理を美しく魅せるには『作法』が重要」名優ブノワ・マジメルが魅せる「キャリア最高の演技」とは?
インタビュー 2024.01.15
料理を美しく魅せるには"作法"が重要なんだ。
ブノワ・マジメル/俳優
フランスを代表する名優、ブノワ・マジメルの勢いが止まらない。27歳の時、カンヌ国際映画祭で男優賞の栄誉に輝いて以来、第一線で活躍してきた。2023年はセザール賞、リュミエール賞というフランスの二大映画賞で、最優秀主演男優賞を受賞。5月に開催されたカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した『ポトフ 美食家と料理人』では、19世紀末に活躍した美食家という役どころを滋味たっぷりに演じ、本国で"キャリア最高の演技"と絶賛されている。
「私は普段からかなり料理をするので、食材を扱うことは慣れていたつもりでした。でも今回の映画の撮影で、料理には時間をかけるということがとても重要なんだと知ったよ」
1920年代に書かれた小説をもとに、『青いパパイヤの香り』(1993年)で知られるベトナム系フランス人監督のトラン・アン・ユンが映画化した本作は、マジメルが演じる19世紀末の美食家ドダン・ブーファンの食への情熱とロマンスを描く。ミシュラン3ツ星シェフにして前衛的な料理を手がけるピエール・ガニェールが本作の料理監修を務めたが、ブノワは「準備段階から、ガニェール本人にナイフさばきを教えてもらったんだ」と舞台裏を明かしてくれた。
「ジャック・ベッケル監督の『穴』(60年)という名画を思い出したよ。刑務所から出ようと穴を掘って掘って掘りまくる映画なんだけど、それが実に魅力的なんだ。『ポトフ』もセリフは少なく、料理するさまをカメラが追うシーンが多い。監督のこの選択は正しかった。料理の流れを丁寧に見せることで、上品さと優雅さが生まれている。 僕は日本で儀式的な作法をたくさん見てきた。たとえば、誰かから貰ったプレゼントの包装を、日本人はいきなり破ったりしないだろう? 監督がアジア系だからなのか、これまでのフランスの料理映画にはない繊細な視点とバランスが生まれていると思う」
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ドダンと彼のアイデアをカタチにする天才料理人ウージェニーとのラブストーリーであることもこの作品に深味を与えている。ウージェニーを演じるのは、『年下のひと』(99年)で出会い、一女をもうけたかつての恋人ジュリエット・ビノシュ。 20年ぶりの共演だ。
「彼女は、私が彼女と一緒に仕事をしたくないんじゃないかと心配していたらしい。でも私はむしろ、いつかはまた一緒に演じる日が 来るだろうと思っていた。そしてその日が訪れたんだよ」
スクリーンに映るかつての恋人、ブノワとビノシュが、眼差しだけで語り合う。ふたりの名優による完璧なハーモニーが、この作品の格を上げていることは、誰の目にも間違いない。
1974年、パリ生まれ。2001年に『ピアニスト』でカンヌ国際映画祭男優賞、15年には『太陽のめざめ』でセザール賞助演男優賞。『パシフィクション』(22年、日本未公開)ではセザール賞、リュミエール賞で最優秀主演男優賞に輝いた。
*「フィガロジャポン」2024年2月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta