クリエイターの言葉 なし崩し的に性行為にいたった少女、その結末とは?すべての人に刺さる映画『HOW TO HAVE SEX』。
インタビュー 2024.07.11
青春期に体験する、性的な同調圧力への眼差し。
モリー・マニング・ウォーカー|映画監督・撮影監督
イギリスの新鋭モリー・マニング・ウォーカーの長編監督デビュー作『HOW TO HAVE SEX』は、#MeToo運動後のフェミニズム映画として重要な作品のひとつといえるだろう。ギリシャの美しい島を舞台にしたティーンエイジャーの女子旅というキラキラした青春映画でありながら、"同調圧力"による性被害というセンシティブな問題を実にリアルに描いている。きらめくひと夏の経験を受け止める主人公たちにカメラは寄り添い、その戸惑いと疑問をまざまざとスクリーンに映し出す。
「友人同士の間で起こる同調圧力はとても興味深いテーマです。16、17歳という年齢は、自分たちが何者なのかを見つけようとして必死に手探りしている時期。みんな周りの人たちを参考にしたりするわけですが、それって、たいてい間違っている」
映画で描かれるお酒とセックス、ドラッグが混在するパーティ三昧の休日は、監督自らが友人の結婚式で訪れたリゾート地での体験にインスパイアされているという。ウォーカーは、羽目を外すこと自体に対しては青春の通過儀礼として捉えており、むしろ正しい認識の欠落こそが問題だと考えている点に注目したい。
「少なくともイギリスでは、子どもたちはセックスの仕方はおろか、お酒の飲み方も正しく教わっていない場合が多いのです。もっとお互いに気遣い合うことができるようになれば、彼らは"安全に羽目を外す"ことができるんじゃないか、と思う」
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主人公タラが、ホテルで出会った青年と浜辺で初めてセックスをするシーンの描かれ方が興味深い。なし崩し的に性行為にいたったタラはその後、納得のいかない乱れた心を抱えたまま明け方まで町を彷徨う。激しいレイプではない分、たとえば20年前であったなら、これは性暴力とは認識されなかったかもしれない。
「多くの人が疑問に思うシーンです。タラは、最初ノーと言い続け、最後にイエスと言いますが、その割には居心地悪そうです。多くの男性は、あれはイエスだと受け止めますが、私にとってこれは性暴力であり、違和感しかないんです」
映画への反応は年齢、性別で多種多様だったという。
「『よく起こること』、『私たちをリアルに描いてもらえた』と涙ながらに語ってくれる女性もいました。『あれはレイプじゃない』と言う人もいましたが、自分たちが学んだセックスへの同意を求めるやり方は間違っていたんじゃないか、と大きなショックを受ける若い男性も多かった。この気付きはとても重要ですね」
1993年、ロンドン生まれ。国立映画テレビ学校の撮影コースを卒業後、初監督短編『アンスピーカブル』(2020年)がカンヌ
国際映画祭の批評家週間に選出。23年、長編監督デビュー作の本作でカンヌ国際映画祭ある視点部門でグランプリを受賞。
*「フィガロジャポン」2024年8月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta