映画『ボレロ 永遠の旋律』監督が語る、最も官能的で性的な作曲家、ラヴェルの魅力。

インタビュー 2024.08.08

音楽で官能性や悦楽を表現したラヴェルに魅せられて。

アンヌ・フォンテーヌ|映画監督

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ANNE FONTAINE/アンヌ・フォンテーヌ
1959年、ルクセンブルク生まれ。パリに移住し、80年代から女優として活躍。93年に映画監督デビュー。『ドライ・クリーニング』(97年)でヴェネツィア国際映画祭脚本賞を受賞。代表作に『ココ・アヴァン・シャネル』(2009年)ほか。

 

スネアドラムによる同じリズムが繰り返される中、ふたつの旋律が18回繰り返され、少しずつクレッシェンドにより音は拡大されること約17分間。この特徴的な構成で知られるモーリス・ラヴェルの「ボレロ」は、バレエの名曲という枠を超え、現代でもさまざまなアーティストに影響を与えている稀有な楽曲だ。アンヌ・フォンテーヌ監督による『ボレロ 永遠の旋律』は、「ボレロ」の創作の裏側を中心に不世出の天才作曲家の謎めいた人物像に迫る伝記映画である。

「『ボレロ』は有機的な曲です。物質的なものを越えたメタフィジカルな曲といってもいいでしょう。特にだんだんとクレッシェンドして最後には崩壊するという独特の構成は、人間の存在を象徴しているようにも思えます。それが、オーガズムなのか、死による崩壊なのか、その解釈は人それぞれだと思いますが、非常に興味深い。なので、私はこの曲を中心にほかの多才な彼の作品もすべて紹介することで、この作家の天才性を表現したかったのです」

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©2023 CINÉ-@-CINÉFRANCESTUDIOS-FCOMME FILM-SND-FRANCE2 CINÉMA-ARTÉMIS PRODUCTIONS

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しかしながら、ラヴェル自身が当初「ボレロ」を嫌っていたことは、多くの人にとって衝撃的であるかもしれない。

「彼自身は『この曲は音楽のない音楽だ』と自嘲気味に言っています。彼にとって世間の評価と自分の充実感は結びつかない。もっと深いところでの満足感を彼は求めたのです」

母親、ミューズであるミシア、娼婦、家政婦、そして「ボレロ」の依頼主である振付師イダ・ルビンシュタインなどラヴェルにとって女性の存在の重要性も描かれる。

「ラヴェルにとって女性は必要不可欠な存在でした。彼には大人になれない部分があり、女性たちはそんな彼に対して母性的に接しています。特にイダは彼の人生の中で決定的な役割を担っています。イダの振り付けを見た時、ラヴェルは唖然とします。モダンな曲を作ったつもりが、まるでキャバレーで男性を誘惑するような振り付けだったのですから。でも、そういう強烈なイダの制約や押しの強さがなければ、彼は作曲ができなかったかもしれないのです」

サウンドトラックにも参加しているピアニストのアレクサンドル・タローは、ラヴェルを「最も官能的で性的な作曲家」と評しているが、実際の彼は性的に派手なタイプでは決してなかった。

「タローの意見には完全に同意します。女性には囲まれていたものの、彼は性生活があまりなかったことも事実。でも、だからこそ音楽で官能性や悦楽を表現ができたのではないかと私は思っています。私は彼のような危うさのある芸術家に惹かれてしまうのです」

『ボレロ 永遠の旋律』
ローマ賞に落選して失意の底にいたモーリス・ラヴェルだが、1920年代には有名な作曲家として成功していた。そんなラヴェルに振付師のイダ・ルビンシュタインから新作のバレエ音楽の依頼が舞い込む。1928年、アメリカへの演奏旅行中にジャズやアメリカ文化におおいに影響を受けるが、作曲は1音も進んでいなかった......。●『ボレロ 永遠の旋律』はTOHOシネマズ シャンテほか全国で8月9日より公開。
https://gaga.ne.jp/bolero/

 


*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋

text: Atsuko Tatsuta photography: ©Marcel Hartmann

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