おとぎ話はいらない。誠実な姿を刻む。
ハインズ|ミュージシャン
「私たちがこれまで経験してきたことは、すべて試練だったことに気付きました。自分たちがどれだけハインズを望み、信じていたかを知るために。このキャリアを選んだことが正しいかどうかを確認するための時間だったのです」
時代に流されることなく、自由な感覚で音楽と向き合う姿勢を感じるガレージ・オルタナティブなバンドサウンドで、日本でもフジロック出演などを通じて人気を獲得したスペイン発のバンド、ハインズ。メンバー脱退という試練を乗り越えて完成した4年ぶりとなるスタジオアルバム『VIVA HINDS』は、タイトルどおりこのバンドで音楽を作ることの喜びが伝わる内容になっている。
「結成当初、実は別のバンド名を考えていたのですが、法律的な問題でこの名前に変更せざるを得なかったのです。でも、その名前をファンの方々が気に入ってくれて、客席から"ビバ! ハインズ"という声援を送ってくれました。あの時の熱狂はいまも私たちの心に強く刻まれていて、困難に遭った時、いつもその声が支えになっている。メンバー脱退や、パンデミックの影響もそう。ファンのみなさんをはじめ、私たちをサポートしてくださっている人たちの存在
があるからこそ、いまの私たちがいる。それを伝えたかったのです」
ふたりだけになったいま、装飾することなく自分たちらしい歩幅で音楽の道を進む、彼女たちの軽やかな足音が作品全体から響く。
フランスの郊外を旅しながら制作したというアルバム。ふたり体制になったことで、より自分たちの理想に近い音になったと、満足そうな表情を浮かべる。
「スタジオに入って音を鳴らしてみると、意外とこの変化をすんなり受け入れられたというか、私たちは最高の楽曲にするために最善の手段を選ぶことをモットーにしているバンドであることを、再確認できた。ふたりになったおかげで、より広いスペース(視野)で、核心を見つけるようになれた気がします」
ゆえに、作品にはスペインの太陽のような、開放感が漂う。
「これは合理的ではなく、誠実に感情と向き合って作られたアルバムなので、特定の順序もありません。私たちは何について書くべきかを考えて作ったのではなく、経験していることを洗いざらい表現することに集中しました。結果、私たちは"新しいルックス"を選ぶことはありませんでした。成熟したふりをしたくなかったし、洗練されたバンドに見せたいとも思わなかった。だから、ここにはおとぎ話や知的な物語はない。心の鼓動によって動かされたものです」
2011年にスペイン・マドリッドにて結成。16年にデビュー。18年にはフジロックフェスティバルに出演するなど、日本でも支持を集める。現メンバーは、カルロッタ・コシアルズとアナ・ガルシア・ペローテのふたり。
*「フィガロジャポン」2024年10月号より抜粋
photography: Dario Vazquez text: Takahisa Matsunaga