10月2日〜11日に韓国で開催された釜山国際映画祭。2021年に新設された配信ドラマを対象とするオンスクリーン部門にNetflixシリーズ「さよならのつづき」が、日本作品として初選出され、11月14日の配信開始に先駆け、第1話と第2話が上映された。
心臓の弱かった成瀬(坂口健太郎)は心臓移植手術をきっかけに、コーヒーが飲めるようになるなど変化を感じていた。ある日、偶然知り合ったコーヒー会社に勤めるさえ子(有村架純)と不思議に惹かれ合うが、やがて事故で亡くなったさえ子の恋人の雄介(生田斗真)の心臓が成瀬に移植されていたことを知る。はたして、心臓の元の"持ち主"の感情や記憶を移植された人が受け継ぐことはあるのだろうか? 北海道とハワイの壮大な風景を舞台に、運命に翻弄されるふたりの美しくも切ないラブストーリー。
大盛況の内にレッドカーペットとワールドプレミアを終えた翌日、主演の有村架純と坂口健太郎に話を聞いた。
――釜山国際映画祭で初めて観客と一緒に作品を観た感想はいかがですか?
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有村 1話と2話だけではあるのですが、あちこちで鼻をすする音が聞こえてきました。グッと感情移入して観てくださった方がたくさんいたのかなと思うと、もしかしたら多くの方にこの物語が届くかもしれない、そんな可能性が見えた気がします。
坂口 本当は8話まで一気に観ていただきたかったですね。どんなにいい作品を作っても、観てもらわないと価値は生まれないと思いますから。でも、物語の走り出しの部分だけしか観ていただけていませんが、その反応はとてもよかったので、心地よく受け止められました。この会場では(地元の)釜山だけでなく、ソウルやいろいろなところから映画祭に集まって来ている方々に観ていただきましたが、この普遍的なラブストーリーは国が違っても届く、パワーがある作品であることを実感しました。
――そもそもこのドラマに出演する決め手は何だったのでしょうか?
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有村 出演を決めた段階では、まだ台本は出来上がっていなかったんです。10年以上お世話になっているプロデューサーの岡野真紀子さん、脚本家の岡田恵和さん、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)やドラマ「太陽の子」(20年、21年に映画化)でご一緒した黒崎博監督という3人が集結した企画を一緒にやりませんかという話を頂きました。私にとってこの3人の方は、成長を見守ってくれている人なんです。さらに坂口(健太郎)さんにもお願いしたいと思っている、という話も聞きました。ということで、またみんなで新しい作品を作れるということがうれしかったです。
――全8話拝見しましたが、だんだん有村さんが、岡野さんに見えてきました(笑)
坂口 実際に岡野さんが経験された出来事がインスピレーション源になっているそうです。
有村 岡田さんの脚本に、ディスカッションしていく内にどんどん岡野さんのエッセンスが盛り込まれていく中で、岡野さんが"これじゃさえ子じゃなくて岡野真紀子だ"という会話もあったらしいですけど(笑)、でももしかしたらさえ子は、プロデューサーの岡野さんに近いところがあるのかもしれないですね。
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――坂口さんが演じられた成瀬は、自分の中に雄介の心臓があることによって、雄介の好みや記憶も受け継いでしまうという複雑な役だと思いますが、通常よりも難しさはありましたか?
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坂口 簡単ではなかったですね。最初はどうしたらいいかわからなかったです。でも、難易度は高いけれど、挑戦しがいがあると思いました。脚本を読んだ時に、自分の中で噛み砕いて解釈して、成瀬として生きることができたらとてもいい役になるんじゃないかと思いました。撮影中は、雄介として生きればいいのか、でも成瀬のことも忘れちゃいけない。あるいは二重人格のように見えてはいけないと思ったり。周囲の人にはどう見えているのか、監督や撮影監督、スタッフの人たちにも聞いたりして検証していました。が、撮影が終わり、編集も終わり、出来上がった映像を見たいまでも、何が正解だったかわからないところがあります。でも、わからなくていいんだとも思います。いろんな正解があるのだといまは思っていますね。
――さえ子は、ふたりの男性を愛することになる女性と見ることもできますし、ずっとひとりの方を愛している女性ともいえますね。
有村 やはりさえ子の心には雄介という存在が、ずっとあり続けているんです。それは必ず忘れないようにしていました。ただ、それが強すぎると、成瀬さんの方に気持ちが向かわない。雄介を思い続けながらも、成瀬さんを好きかもしれないという気持ちに持っていかなければならないのが複雑でしたね。亡くなってしまった人を求めてしまう、もういちど会いたい、もういちど触れたいという感情は絶対にあるじゃないですか。魂が生き続けると思ったとしてもです。寂しさや孤独、葛藤がきっとさえ子にもある。でも、そういう混乱はあったほうがむしろグラデーションを持って演じられるかも知れないと思って演じていました。
――坂口さんは、雄介を演じている生田斗真さんから、なにか影響を受けたりしましたか?
坂口 雄介のクセのようなものをなぞるのと、成瀬そのものでいるのはどっちが良いんだろうなとは思っていたんです。でも、ピアノの先生も、雄介の弾き方と成瀬の弾き方と、2パターン作っていたんですよ。だから今回は成瀬としてのセリフの話し方や音程、身振り手振りでいいんだろうなと思ってやっていました。
――臓器移植をしたことによって、その元の持ち主の記憶が身体に入る。これはファンタジーとも言えるんですけど、人間の身体ってまだまだ解明されない神秘的なところがたくさんありますよね。そういう意味で言うと、成瀬に起こったことは、信じ得る話じゃないかなと思いますが、おふたりはどうでしょうか?
有村 私もそう思いました。輪廻転生という言葉があるように、私は何かの生まれ変わりかもしれないとか思います。それに、何故かわからないけど好きなんだよねってものがあったりするじゃないですか。実はそういったものが縁が結ばれていることも実際にあったりする。
坂口 あると思いますよ。たとえば成瀬は、経験していない記憶が突然出てきたり、さえ子を初めて見たときに、この人どこかで会ったことあるかもしれないと思ったりします。そりゃ混乱するだろうなと思いますが、そういうことはあり得る気がします。
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――有村さんは、普段の話し方は可憐で静かですが、この作品のさえ子という女性は、明るく強く、ポジティブですね。また成瀬の妻ミキも成瀬をリードするような積極的な女性です。このドラマの中の女性たちは、みな強くて生き生きしていますね。強い女性像が映像作品の中でも自然に登場するような時代になった気がしますが、いかがでしょうか?
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1993年生まれ、兵庫県出身。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍注目を集める。『ビリギャル』では『第39回日本アカデミー賞』新人俳優賞、『花束みたいな恋をした』では『第45回日本アカデミー賞』主演女優賞に輝く。その後も数々のドラマや映画で活躍。instagram: @kasumi_arimura.official ドレス¥173,800/エンポリオ アルマーニ
有村 この作品の制作過程で脚本家の岡田さんが、米国のNetflixの講習に行かれました。60歳を過ぎて、経験も豊富なベテランが、また新しいことを学び、いろんなインスピレーションを受けてこのキャラクターが出来上がったと思います。いままでに無いキャラクターを生み出したいということで、さえ子やミキ、さえ子の先輩ミドリといった女性たちは、自分の感情をストレートに表現されるキャラクターとして描かれているのだと思います。私も、そういう強い要素を求められていると感じたので、自分の持っている手持ちのカードを並べてみて、これは使える、ここはないからちょっとこれに挑戦してみようとか。そういったことを整理しながら、さえ子という役を作り上げていきました。
――有村さんご自分のキャラクターとはだいぶかけ離れたキャラクターですか?
有村 普段の私とは違いますが、でも自分の中にもあるエネルギー、生命力みたいなものを目一杯出し切った、といった感じですね。
――坂口さんは、強い女性キャラクターが多く登場していることをどう受け止めましたか?
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1991年東京生まれ。2014年、映画『シャンティデイズ365日、幸せな呼吸』で俳優デビュー。以後『そして生きる』『仮面病棟』『余命10年』『サイド バイ サイド 隣にいる人』など主演多数。イ・セヨンとW主演のPrime Video独占配信ドラマ『愛のあとにくるもの』も話題を呼んでいる。instagram: @sakaguchikentaro
坂口 確かに女性たちがエネルギッシュというか、ハツラツとしていると感じました。でも、だからこそ、たとえばひとりになった時の表情とか、その裏にある苦しみみたいなのも映しているとも思いました。そう考えると、いろんな感情が映し出されているところもこの作品の魅力だと思います。
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
Tel: 03-6274-7070
text: Atsuko Tatsuta, hair&make: Izumi Omagari(Kasumi Arimura),Hirose Rumi(Kentaro Sakaguchi), styling: Yumiko Segawa(Kasumi Arimura),Taichi Sumura(COZEN inc,Kentaro Sakaguchi)