最新アルバム『My Method Actor』に込めた思いとは? ロンドン出身のシンガーソングライター、ニルファー・ヤンヤに注目
インタビュー 2024.12.18
メソッド演技の方法で、共感を深化させる。
ニルファー・ヤンヤ|シンガーソングライター
1995年生まれ、ロンドン出身。トルコ人の父とバルバドス系アイルランド人の母を持つ。2016年から3年連続でEPを発表、その後アルバム『Miss Universe』(19年)、『Painless』(22年)をリリース。実の姉はMVを撮影、妹はライブでコーラスを担当する姉妹仲の良さ。
「私の歌は、自分のことにしろ、世界の人々のことにしろ、観察することによってどのような気持ちになるのかを取り上げているのだと思う。たとえば、世界の人々に起きている悲惨なことについて、他人の苦しみなど、自分が知らないことについて書くのはいつだって難しい。だからこそ、音楽はそういった人たちと繋がろうとするための手段でもあるのよ」
現在29歳のニルファー・ヤンヤは、音楽活動のほかに、映像作家である姉とともに「Artists In Transit」の創設メンバーとなり、ギリシャの難民家族をはじめ、ロンドンに住む戦争難民や不法難民の親子などに向けて、想像力を刺激するアートワークショップを行っている。両親がビジュアルアーティストという芸術一家に育ったこともあるのだろう、彼女の音楽は魅力的で、特に最新アルバム『My Method Actor』にはどのようにでも解釈できる、聴く人の心を触発するエッセンスが詰まっている。いま、絶対に注目してほしいアーティストのひとりなのだ。
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オーガニックでパーカッシブな音とエレクトロニックなサウンドに、哀愁を帯びた歌が流れる「Ready for Sun(touch)」は、終盤の情動的なチェロの調べまで惹きつけて止まない。
「当初、この曲には孤独でぼんやりとしたイメージがあった。人が大きな天蓋から姿を現し、とても長い影ができて、その影から足を踏み出して太陽の光の下へ行き、顔や腕に陽を浴びる......。そうして隠れていたのをやめて、無防備になる安心感を得られたことについての曲かしらね。間奏部分は、空しさに触れて、感情の空白を埋めたいことに気づいたけれど、もうどうにもならない、失敗する運命にあることを表しているんだけどね」
人気曲「Like I Say( I runaway)」では、「束縛と、時間の大切さ」を歌う。「Mutations」は「何かから逃げて安全な場所にいたいという大きな悪から逃げようとしている人の視点で作っている気がした」と話し、「この歌はある意味警告のメッセージね」と説明する。
アルバムタイトルにも曲名にも使われているMethod Actor(メソッド演技法)とは、俳優が役柄の感情や状況を追体験し、深く理解することで、より自然でリアルな演技表現を行うアプローチ法のこと。彼女はこのアルバムで、この理論のように、自然体で自分自身から湧き上がる創作世界に没入できたという。好きなアーティストとしてP・J・ハーヴェイの名前をあげていたが、ニルファー・ヤンヤにも多才な活躍を強く期待したい。
*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋
photography: Molly Daniel text: Natsumi Itoh