昆虫や自然を尊び、歌の中で生命を吹き込んでいく。
リアナ・フローレス|シンガーソングライター
1999年、イギリスのサウス・ノーフォークの田舎町に生まれる。父はイギリス人、母はブラジル人。高校卒業後に音楽作りを始め、20歳の時に「rises the moon」がTikTokでバズり、注目される。2024年12月に初来日公演を行った。
「人生は儚く、移ろいゆくものなのに、人は永遠を求め、そこにしがみつこうとする。そんな矛盾した欲望を花が象徴しているの。花は美しく咲くけれど、いずれ枯れる。そのように自然は美しくも不完全なのに、それでもなお美しい。人間の魂にもそれにどこか似ているのではないかと思う」
フォークミュージックとボサノバの影響を受けたリアナ・フローレスの音楽は、神秘的でタイムレス。そのミックスに最も成功した曲は「バタフライズ」といい、アルバム『フラワー・オブ・ザ・ソウル』の重要なテーマ、花の持つ"一瞬の儚さ"もそこで歌われている。歌の最後では"変身"する様子がポルトガル語で歌われる。「もうわからない/どこに私が行くのか/私の魂には花がある/今未来が開く」
「これは母が若い頃に私に書いてくれた詩からの引用なの。私から母に捧げる曲なので、ある意味、"成長"して"飛び立つ"ことの象徴という意味で、歌詞にしたいなと思ったの」
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子ども時代に自然の中で、想像力豊かな時間を過ごしたのだろう。
「ナイトヴィジョンズ」の映像からは大好きなケイト・ブッシュからの影響に加え、シャーロット・ブロンテ著『ジェーン・エア』やダフニ・デュ・モーリエ著『レベッカ』、さらにバンパイア小説や映画を想起させる。実際、これらのゴシック小説や、ロマン派の詩に見られる「強烈で深い愛情に没入する側面」からも影響を受けたと明かす。しかし、ほかは歌の主人公として歌っているわけではない。
「全体を見渡し、自分の身体から切り離された観察者の視点で書いている。自然や自然の美しさを尊ぶ気持ちや、世の中すべてのものの儚さなどが大きなインスピレーションになっているの」
確かに、「クリスタリン」からは、パーシー・ビッシェ・シェリーの詩が思い浮かぶし、ロマン派の詩と共鳴する部分が多い。
「そのとおりよ! この曲は都会で生きることと田舎で生きること、その間の緊張感について考えていたの。それって、ロマン派の詩では王道と言えるテーマだと思うわ」
大学で動物学や虫の研究をしたことも、役立っていると話す。
「おもしろい昆虫を見つけたら、自然の細部に目を向けようと思わせてくれるでしょ。落ち葉や昆虫といった小さきものに目を向けるきっかけ、たとえばそういう細やかな美しさが、詞のインスピレーションになることはある。それを言葉にして、作品の中で生命を吹き込んであげたいという気持ちにしてくれるのよ」
フォークの面ではニック・ドレイク、ジョーン・バエズ、ヴァシュティ・バニヤンなど、ボサノバではジョアン・ジルベルトとアストラッド・ジルベルトなどから影響を受ける。この初のフルアルバムでは、特に「ノア・ジョージソンとコラボレートできたことで、レトロ感とモダンさのバランスが取れた素敵なサウンドを一緒に見つけられた」と話す。髪型や服装は、ガル・コスタやバニヤンをとても参考にしているとのこと。
●『フラワー・オブ・ザ・ソウル(フル・ブルーム)』iTunesなどにて配信中。
*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋
text: Natsumi Itoh