小説に留まらない"言葉"の挑戦。
チョン・セラン|作家
1984年、韓国ソウル生まれ。出版社勤務を経て、2010年に作家デビュー。13年、『アンダー、サンダー、テンダー』でチャンビ長編小説賞、17年に『フィフティ・ピープル』で韓国日報文学賞を受賞。
『フィフティ・ピープル』『保健室のアン・ウニョン先生』などのヒット作で知られ、日本にも多くのファンを持つチョン・セラン。近年は小説の執筆にとどまらず、短編アニメ映画集「スター・ウォーズ:ビジョンズ2」の脚本を担当したり、KPOPグループIVEのPVにナレーション文言を提供するなど活躍の場を広げている。
「また新しいことをやっているなと思っていただけるような作家になりたいです。挑戦には失敗や迷走がつきものですが、得意なことばかりを続けるのではなく、少しずつ方向性を変えていこうと意識しています。これからも小説を書き続けて、他ジャンルのアーティストとのコラボもどんどんやっていきたいですね」
朝9時から18時頃まで仕事をして、夜は読書や映画鑑賞をして楽しむ。1カ月に読む本の数は、平均20〜30冊におよぶという。
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「日本の作家ではアジア作家のアンソロジー『絶縁』でご一緒した村田沙耶香さんの作品が以前から好きで、独自のスタイルに深く感銘を受けています。推理小説もよく読みますね。最近おもしろかったのは、阿津川辰海さんの『透明人間は密室に潜む』です」
美術館やギャラリーに足を運び、アート体験からインスピレーションを得ることも多いと語る。
「よく訪れるのは、ソウル市美術館や国立現代美術館。SONGEUNは建築物としても素敵で、企画展も素晴らしいです。さまざまな分野の芸術に触れるというのは、本当に重要なことだと思います。先日は演劇を観に行ったのですが、小説とも映像とも異なる表現方法がとても印象的でした。新しいものを吸収したことで、自分が書く文章にもちょっとした変化が起こりました」
2024年11月には、デビュー初期の小説『J・J・J三姉弟の世にも平凡な超能力』の日本語翻訳版が出版された。突然、不思議な能力を身につけた三姉弟が人助けをするというファンタジー小説だ。
「自分の能力を過信したり乱用したりせず、やれるところまでやってみようと試行錯誤する人物を描きたかったんです。リアリティある姉弟の物語を書きたいという思いもありました。3人は超能力について相談し合うことは少ないですが、あえて話さなくてもどこか通じ合っている関係です。いろいろと想像する余地のある愉快な小説なので、読者にも、もし小さな超能力が芽生えたら、どんなふうに使うかな? と想像して、短い文章を書いていただけたらうれしいです。持論ですが、読むことが好きな人はいつか書くことになると私は思うんです」
研究員のジェイン、アラブの建設現場で働くジェウク、年の離れた高校生の末っ子ジェフンの三姉弟。旅先で蛍光色のアサリを食べた彼らは、"超"と言うほどでもない不思議な能力を身につける。そんな中、それぞれのもとに「誰かを救え」というメッセージ付きの小包が届き、3人は自分の能力を生かして人助けに奔走することになるが......!?三姉弟の冒険を軽快に描く、心あたたまる冒険ファンタジー中編小説。
●『J・J・J三姉弟の世にも平凡な超能力』亜紀書房刊 ¥1,760
*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋
text: Reiko Fujita photography: ©목정욱