「地質の記憶」との対話から生まれるアート。
ラティティア・ジャケトン|ガラス工芸作家
1970年、フランス・ディジョン生まれ。自然豊かなブルゴーニュ地方で幼少期を過ごす。メゾン マルタン マルジェラなどファッション界でキャリアを積む。ギャラリー・ラファイエットでアートディレクターを務めた後、作家活動をスタート。
ガラスと石とで構成された有機的な表情の作品を手がけるラティティア・ジャケトン。その創造の源には日本との深い関わりがある。「20歳の頃からヨウジヤマモトやコム デ ギャルソンなど日本のクリエイションから刺激を受けていました。1990年代のことです。その後、実際に日本を訪れて知ったのが工芸の魅力でした。ファッションの仕事をしていた時には目まぐるしい速度のなかにいたので、時間をかけた制作をしたいと考え、自然が好きなので庭師になることを思い描いたりもしました」
休暇で再び訪日した時には、金沢や京都で日本庭園や寺院の石庭も訪ね、興味のあった「石」にさらに惹かれるようになった。吹きガラスを体験、魅力を実感したのは沖縄だったという。インスピレーションを得た彼女は、イタリアのムラーノ島で作品制作を始める。「制作で苦戦するなかで私の背中を押してくれたのが、民藝運動を牽引した柳宗悦の本で知った日本の美意識であり哲学です。『完全で整った造形ではないものに美が宿る』と。勇気をもらいました」
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吹きガラスの醍醐味とは瞬間的に形づくられる点、と語る。
「ガラスは私そのもの、嘘をつくことはできません。そして制作は対話の連続です。ガラスという素材との対話はもちろん、ムラーノガラスの伝統技法を継承する職人たちとチームを組んでいるので、彼らとの対話もあります。それは石と対峙する時も同様です」
大地のエネルギーに関心を持つ彼女は、火山と周辺の地質を調査しては足を運び、「自分に語りかけてくる石」を採集し、背負ったバッグで持ち帰る。火山層の働きで生成される岩や石の豊かな表情や組成をそれぞれ受けとめた上で、熱したガラスを吹き込むのだ。近作では使われなくなったガラス工房の窯のレンガの破片や、ガラスを溶かす坩るつぼ堝の破片も用いられている。ムラーノ島に刻まれてきた創造の記憶や時間の積層ともなる素材が人工的な素材とダイナミックなバランスを保った、有機的で詩的な姿だ。この作品は原初的な力と躍動感に包まれている。
「窯や溶けたガラスが付いた坩堝は、人の活動における"地質学的な存在"です。それらと永い時を経て生成され、変成されてきた地質学的な岩や石とが力を与え合う構造をカタチにしていく。私の作品はミネラルと空気、水といった自然素材の融合です。素材が異なれば制作時の温度も異なり、湿度をはじめ天候にも左右されるのでデッサンどおりには進みません。だからこそ楽しいプロセスです。私はいつも、自然が与えてくれるもので遊び心を表現しています」
*「フィガロジャポン」2025年3月号より抜粋
photography: Noel Manalili text: Noriko Kawakami