「人間性が欠如したまま美しくあることのグロテスクさ」マーガレット・クアリーが話題作『サブスタンス』で描く「虚栄心」。
インタビュー 2025.05.19
「虚栄心」に支えられた、現代の"美の神話"への疑念。
マーガレット・クアリー/俳優、モデル
1994年、アメリカ合衆国モンタナ州生まれ。母は俳優のアンディ・マクダウェル。モデル活動を経て『パロアルト・ストーリー』(2013年)で映画デビュー。クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)で注目を浴びる。
カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞、アカデミー賞では作品賞をはじめ5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞するなど注目された『サブスタンス』は、フランスの気鋭コラリー・ファルジャが現代に生きる女性の実存というテーマに迫った野心作だ。
加齢による容姿の衰えが理由で看板番組を降板させられたエリザベス(デミ・ムーア)が、闇の最先端医療に手を出し、若くて美しい理想の自分"スー"を作り出す。若手実力派として存在感を発揮するマーガレット・クアリーはこのスー役でゴールデン・グローブ賞助演女優賞にノミネートされるなど高い評価を得た。
「私がこれまで参加した中で最も革新的な映画でした。スーは、ほとんどサブスタンス(内容)がない、つまり心がない。虚栄心によって虚ろなまま生きている存在です。私と同一視してほしくないほど共感できないキャラクターなので、心理的な準備をする必要はほぼなかったのですが、身体的な準備はたくさんやりました。ウェイトトレーニングだけでなく、赤ちゃんのような柔軟性や完璧さを表現するためにヨガにも時間をかけました」

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幼少の頃のバレエ経験が育んだしなやかで芯のある身体に磨きをかけたクアリーが体現する"完璧性"は、現代社会における美、老い、自己、欲望の政治性を語るための鋭利な装置として機能している。人間性が欠如したまま美しくあることのグロテスクさと恐怖を、クアリーの身体を通して象徴しているのだ。こうした、現代における"美の神話"への疑念を、彼女自身はどう捉えるのだろうか。
「本来すべきことは、自分自身に近づくことだと思います。年を重ねることは幸運であり、白髪やシワが出てくることは幸福で、それがちゃんと生きているという証なのだと思います。でも難しいのは、若さやそれに恩恵を受ける美しさに価値が置かれてしまっているという世の中の状況。価値観のバランスが完全に崩れてしまっている。私は、こうした映画やカルチャーが本来の価値観を取り戻す手助けになればいいと思っています」
美容医療が過熱する一方だが、美貌や若さへの過剰な執着が社会環境に起因していることには異を唱える。
「個人の責任、社会的環境。その両方がこの問題に関係していますよね。この作品について、1年近く取材を受けてきましたが、印象に残っているのはデミ・ムーアが繰り返し言っていた"私たちは誰も被害者ではない"という言葉です。彼女はとても聡明だと思います。環境がどうであれ、人間は自分を解き放つことができる。自分が主体性を持って生きてこそ、人は力を得ることができるのですから。本作を通じて、デミからは本当に多くのことを学びました」
50歳で番組を降板させられたエリザベスは、闇の再生医療で若さと美貌を取り戻したスーを生み出す。しかしスーの自我が暴走、「1週間ごとに入れ替わる」というルールを破り始め......。
5月16日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開。
https://gaga.ne.jp/substance/
*「フィガロジャポン」2025年6月号より抜粋
photography: REX/Aflo text: Atsuko Tatsuta