アダム・クーパー/バレエダンサー
1971年、イギリス・ロンドン生まれ。英国ロイヤル・バレエでプリンシパルとして活躍中にマシュー・ボーン振り付け『スワンレイク』に出演、センセーションを巻き起こす。97年の退団後は、数々の舞台に出演。振付家、演出家、脚本家としても活躍している。
新演出で伝えたいメッセージは、初演時と変わらない「葛藤」と「前進」
英国ロイヤル・バレエのプリンシパルとして活躍、ダンサー、俳優としてキャリアを築いてきたアダム・クーパー。敬愛する演出家ニコライ・フォスターによる2021年初演のミュージカル『コーラスライン』の新演出版に出演が決定、日本公演を控える。オリジナルは1975年に誕生、世界的大ヒットを記録した作品だ。
「舞台は70年代のブロードウェイ。いちばん大事にしたのは、どのようにして現代の観客との繋がりを作るか、ということ。いまのダンサーが踊るのであれば、当時とは違った表現が必要です。音楽も新たなオーケストレーションを施し、よりパワフルな舞台になりました」
この作品が光を当てたのは、ブロードウェイでの仕事を掴もうと熾烈なオーディションに臨むダンサーたちだ。
「葛藤を抱えながら前進する人々の物語です。実際のダンサーたちの取材をもとに作られているだけに、赤裸々で生々しく、辛くなる部分もありますが、だからこそ長く愛されてきたのだと思います。自身の弱さと戦い、夢を追い希望を持って生きる。それがこの作品のテーマです。新たな解釈が加わっても70年代当時と同じメッセージとパワーが込められています。フリーランスならなおさら、パフォーマーは常に苦労し、打たれ強くなる必要があるけれど、それはどんな時代、どんな職業にも当てはまります」
クーパーが演じるのはオーディションを仕切る演出家のザックだ。極めて厳格で時に高圧的だが、新演出版では舞台上でダンサーたちと密に関わっていく。
「ニコライはそうすることで、ザックの存在をもっと理解してもらえるようにしたいと考えていました」
終盤には、新たにザックのソロのダンスも挿入された。誰もいない舞台で彼はひとり、自身のキャリアを振り返る。
「とても短いソロですが、ダンサーとしての過去を捨て、振付家として前進しつつも葛藤する彼の姿を表現しています。この場面で流されるのは、『コーラスライン』でトニー賞を受賞した時のマイケル・ベネットのスピーチ音声。オリジナル版とベネットへのオマージュであり、ザックというキャラクターの別の一面を見せる素晴らしい方法だと感じています」
表現者として華々しい活躍を重ねてきたクーパー自身も、近年はより多くの時間を、振付家、演出家として過ごす。
「パフォーマーと違って、演出家、振付家は作品全体のことを考え、創造的な脳を使いますが、クリエイティブなことは大好きなんです。振り付けに真剣に取り組むために演者としてのキャリアを諦める人も多いけれど、僕はこんな素晴らしいショーに出演し、別の場所では作品を作る仕事に携わることができている。これは本当に幸運なことです!」

新演出版『コーラスライン』
最初で最後ともいわれる日本での上演は、9月8日~22日に東京建物 BrilliaHALLにて日本プレミア公演、その後仙台、大阪を巡演し、10月10日~19日にはシアターHにて東京凱旋公演が予定されている。
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photography: Marc Brenner
*「フィガロジャポン」2025年10月号より抜粋
photography: Akihito Abe text: Tomoko Kato