「失敗を消化する物語」アヤ・オガワによる舞台『鼻血―TheNosebleed―』、新国立劇場海外招聘公演として上演。
インタビュー 2025.11.19
アヤ・オガワ/劇作家・演出家・パフォーマー

1974年、東京都生まれ。アメリカ合衆国ブルックリンを拠点に劇作家、演出家、パフォーマーとして活躍、また翻訳家として日本の現代戯曲の英訳を手がけ、岡田利規などの作品を翻訳。2023年に『鼻血―The Nosebleed―』でオビー賞を受賞した。日本劇作家協会の新作シリーズ英訳日本語劇選考委員。
自分の人生をキャンバスにして描く、「失敗」の物語。
日本をルーツに持つアヤ・オガワの作・演出による舞台『鼻血―TheNosebleed―』が、新国立劇場海外招聘公演として上演される。2021年にニューヨークで初演、その後アメリカ各地で再演を重ねたオガワの代表作のテーマは「失敗」だ。
「失敗は生きている人全員が体験するのに、それを消化する場がない。多くの人がひとりぼっちで失敗を背負って人生を歩んでいる。このテーマしかなかったけれど、話し合えば何かおもしろいものが出てくると感じていました。それで週に一度のペースで稽古場を予約。『気軽に来てね』と仲間に声をかけ、4、5人で最初のセッションをしたのが2016年、トランプが大統領選挙に勝った次の日でした。重い空気の中、各々の失敗談をシェアしたら、話を聞いてもらうだけで自分でもちょっと笑えてきた。失敗の話を演じ、それをまた別の人が演じると、さらに失敗との距離感が生まれた」
そうした実験を重ね、自身の人生をキャンバスにして作品を書くことに。核となるのは父のこと。家族とともにアメリカに移住した、無口で冷たい"昭和の父親"だ。
「お葬式もしなかったし、亡くなって10年以上、父のことなんて考えたことがなかった。それは失敗だった! 別に自分の失敗や父の話もしたいわけではなかったけれど、お客さんが心を開いてくれるような空間に導くためには、そうしなければダメだと思いました。父のことを書くと決めたら、おもしろいこと、苦しいこと、いろんな出来事がどんどん思い出され、なかでも印象的だったことを書いたのがこの作品です」
オガワが演じるのは自身ではなく、その父親。アヤ役は、絶大なる信頼を寄せる4人の俳優たちが担う。
「稽古場での実験でいろんな人がひとりを演じてみた。それがおもしろくて。アヤを演じるカイリー(・Y・ターナー)は息子がふたり、(塚田)さおりは日本がルーツ、アシル(・リー)はアジア系アメリカン、ドレイ(・キャンベル)はクィア。どこか私のアイデンティティと重なるところがあるんです」
ユーモアもたっぷりちりばめられた舞台。描き出すのは、自身のアイデンティティのこと、父との複雑な関係──。
「死んだ父との関係を完全に変えることはできないけれど、過去の関係性、その解釈の仕方を変えることはできると感じた。当初は違うタイトルでしたが、アドバイスを受けて『鼻血』に。鼻血って大したことではないけれど、血は先祖と子どもたちを繋ぐもの。これがいいのかな、と思いました」
たびたび観客を巻き込んでいく手法も、ユニークで魅力的。
「舞台と客席の間に壁があって、お客さんが見えないフリをしなければいけないのは苦手。いつも、もうちょっとびっくりさせるものをやろうよ!って思っているんです(笑)」

©DJ Corey Photography
『鼻血―The Nosebleed―』
4人の俳優がそれぞれの「失敗談」を語る。やがて彼らはそれぞれ「アヤ」を演じながら観客に問い始め──。
11月20日~24日、新国立劇場 小劇場。英語上演/日本語字幕付き
https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-nosebleed/
*「フィガロジャポン」2026年1月号より抜粋
photography: Darren Cox text: Tomoko Kato





