シャー・モー/映画監督

1990 年、中国・北京生まれ。北京電影学院監督学科で学部・大学院(修士)課程を修了。在学中から短編映画や卒業制作で評価を得た後、2021年、恋愛映画『あなたがここにいてほしい』で商業映画デビュー。大ヒットを記録し新進監督として注目を集めている。
「真実に近道はない」。新進監督が心に決めたこと。
中国のミレニアル世代を代表する映画監督のひとりとして注目されるシャー・モー。"社会現象的リアルラブストーリー"として大ヒットした『あなたがここにいてほしい』(2021年)に続く、長編第2作『愛がきこえる』(25年)は、ろう者の父と幼い娘との関係を軸に個人と社会の間に生じる隔たりを静かに見つめた作品だ。興味深いのは、本作では耳が聴こえないために社会的に"弱者"に陥りがちな父親を娘が支え、時に守るというコーダ(ろう者の親を持つ聴者)が直面するリアルが描かれている点だ。
「子どもは弱者、という視点で描こうとは思いませんでした。なぜならば多くの子どもは早くから成熟していて、自分の感覚や世界を持っているからです」
このテーマに興味を持った理由は、ろう者のために裁判を戦う専門の弁護士がいると知ったことだという。
「その方もコーダで手話に精通しており、多くのろう者の代弁をしている弁護士でした。その事務所で助手をしているろう者の妊婦の方に会ったのですが、私は『彼女が健常者の赤ちゃんを産んだら、どう教育し、交流するのだろうか?』と想像しました。それが作品の起点です」シャーはろう者コミュニティを長期にわたって丹念にリサーチし、物語に真実味を与えようと努めた。
「脚本家と2年近くかけて、ろう者の家庭、職場、病院などさまざまな場に同行しました。ろう者の人々が抱える問題のひとつは、外見から障害が判断できないことです。社会の中で助けが必要な様子を見せまいとすることで、かえって狭い範囲に閉じこもってしまいがちなのです」
また、映画にも反映されているように詐欺被害の多さも印象に残ったという。ノワールな雰囲気の演出は、デレク・シアンフランス監督の『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(12年)を参考にしたという。社会派ドラマにクライムスリラーといったジャンルを融合させた語り口は、ヒットメーカーとしての確かな力量を確信させる。父親シャオマーを演じたチャン・イーシンにも賛辞を惜しまない。K-POPの人気グループEXOのレイとして世界的に活躍するチャンだが、6歳から子役として活動しており、俳優のキャリアもかなり長い。
「非常に努力家の俳優です。撮影後もコンサートでろう者の観客席を設けるなど、自身の影響力を使った取り組みを続けているんです」と、シャーはチャンの人間力にも触れた。信頼できる脚本家や俳優と一歩ずつ積み上げた結果、本作は多くの人を感動させ本国では大ヒットした。「真実を語るには近道はない」という言葉には圧倒的な重みがあった。

ろう者でシングルファザーのシャオマーとコーダとして父親を支える7歳の少女ムームー。離婚した妻が娘のムームーに"普通の暮らし"をさせたいと親権を巡る裁判を起こし......。
2026年1月9日から全国で公開。
https://www.march.film/aigakikoeru
CKF PICTURES (Ningbo) Co., Ltd. / iQIYI Pictures (Beijing) Co., Ltd. / Shanghai Tao Piao Movie & TV Culture Co., Ltd
*「フィガロジャポン」2026年2月号より抜粋
text: Atsuko Tatsuta




