「癒やされないまま生き続ける」ヨアキム・トリアー監督最新作『センチメンタル・バリュー』の魅力を、主演女優が語る。

インタビュー 2026.02.17

レナーテ・レインスヴェ/俳優

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photography: Reuters/Aflo
 
Renate Reinsve
1987年ノルウェー生まれ。オスロ国立芸術大学で学んだ後、舞台女優として活動を始め、ヨアキム・トリアー監督の『オスロ、8月31日』に端役で映画デビュー。同監督の『わたしは最悪。』で第74回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞。

北欧の気鋭ヨアキム・トリアー監督最新作『センチメンタル・バリュー』は、かつて名声を誇った映画監督の父と、その娘たちの断絶と再会を描く物語だ。家族という最も親密な関係のなかで、癒やされない感情とどう共存するのか。本作はこの困難な問いを抑制の効いた筆致で掘り下げ、第78回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。第98回アカデミー賞でも多数の部門でノミネートされている。

主人公の舞台女優ノーラを演じるのは、トリアーの『わたしは最悪。』(2021年)で一躍世界的な注目を集めたレナーテ・レインスヴェ。『わたしは最悪。』が現代を生きる若者の不安定さを鮮やかにすくい取った作品だとすれば、本作は"成熟できない大人"、あるいは感情の停滞を真正面から引き受ける映画だ。現実から逃げ続けるジュリーと留まったまま感情に囚われ続けるノーラは、対極にある女性といえるだろう。

「ノーラは、より多くの感情的な重荷を抱えています。彼女は悲しみに深く入り込み、その感情に浸っている。ジュリーは不安から逃げ続けていたけれど、ノーラは逃げることができないんです」

この作品で重要なのは、映画という芸術でしか人生を向き合えない父(デンマークの名優ステラン・スカルスガルドが演じている)が単なる加害者として描かれていない点である。父は娘たちを捨て深く傷つけたが、彼自身も不完全さと孤独を抱えた人間でもある。

「誰かに傷付けられたとするならば、そこから完全に抜け出すのは難しい。けれど、"自分を気遣うことができなかった人"の痛みに、思いやりを向けること。それが、この映画ではとても重要なんです」


ノーラという人物が体現するのは、癒やされないまま生き続けること、そしてそれでも他者との関係を結び直そうとする、その困難さなのだ。レインスヴェは本作の最大の美点のひとつである"視点の転換"に触れるが、トリアー監督との仕事は、常に自己変容を伴うものだという。

「彼と一緒に働くと毎回、自分自身や世界について違う視点から理解することになる。実際、少し違う人間に、少し違う女優になっていると感じるんです」

本作ももちろん北欧の巨匠イングマール・ベルイマンからの影響が明白だが、ベルイマン作品の"厳しさ"は影を潜め、優しさがその世界観を覆う。レインスヴェは、カンヌの記者会見でトリアーが語った「優しさは新しいパンクだ」という言葉を引用した。

「いまはキャッチーであることが優先される時代です。形式的な映画もたくさんあります。それらが悪いとはいいませんが、そんな時代に人間の感情や経験にここまで降りていき、親密な方法で語ることはとても勇敢な行為だと思います。実際、それはとても稀なことなのです」 

『センチメンタル・バリュー』
俳優として活躍する姉ノーラと夫と息子と穏やかに暮らす妹のアグネスの元に、幼い頃に家族を捨て、疎遠になっていた父が姿を現し、15年ぶりの自伝的映画の主演をノーラに打診する。
2026年2月20日から全国で公開。
https://gaga.ne.jp/sentvalue_NOROSHI/

 

text: Atsuko Tatsuta

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