時を経て再び門を開いた、鎌倉文士の邸宅でお茶を。

鎌倉ウイークエンダー 2024.12.07

長谷川真弓

鎌倉をこよなく愛した作家、大佛次郎の別邸が、この秋に週末限定のカフェとしてオープン。かつて客人をもてなしていたという趣きのある茶亭で、とっておきの時間を過ごしてみては。

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大正8年に建てられた、茅葺き屋根の邸宅。関東大震災もまぬがれた貴重な建物で、鎌倉市景観重要建築物にも指定されている。

「歴史ある建物を守りたい」と継承された、茅葺き屋根のお屋敷。

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節の残る木材を用いた、趣きのある玄関。

参拝客でいつも賑わう鶴岡八幡宮の参道から、少し脇道に入ると、大和堀に囲まれた大きなお屋敷があらわれる。

ここは、大正から昭和にかけて活躍した作家、大佛次郎(おさらぎじろう)ゆかりの場所。

道をへだてた向かいには本宅があり、ここは別邸として来客のもてなし、交流の場として使っていた茶亭なのだそう。

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駅から徒歩10分。鎌倉らしい門構えの前で出迎えてくださったのは、管理責任者の佐藤晴美さん。

実は20年前にもここは茶廊として一般に開かれていた。駅前とは別世界のような静かな空間でお茶ができる、鎌倉の中でも特別な場所として観光客にも地元の人々からも愛されてきたが、多くのファンに惜しまれつつ2019年に閉店となった。

その後、親族では維持していくのが困難となり、売却、建物の解体の危機が報じられたことも。

いよいよこの場所がなくなってしまうという時、大佛文学を愛する1人の有志が「かけがえのない文化遺産を守りたい」と手をあげ、「一般社団法人 大佛次郎文学保存会」を立ち上げて、無事に継承されることとなった。

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大正10年から鎌倉に移り住み、終生を過ごしたそう。『鞍馬天狗』シリーズなどの大衆文学のほか、多様な文学作品やノンフィクション、童話や翻訳作品などを残した。

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季節の花が咲く庭を眺めながらお茶を。

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縁側から出てお庭を散策するのもおすすめ。

一年をかけて改修工事が行われた大佛邸。痛んだ箇所の修繕をメインに、ていねいに土壁を塗り替えし、表具を整えていったため、当時の趣きが保たれている。 

解体された自宅の床材なども一部、大事に今の茶亭に使われているそう。大佛氏が、時を超えて我々をお客さんとして温かく迎え入れてくれているような気持ちに。

約300坪の敷地に悠々と広がる芝生の庭では、梅や桜、藤棚など、四季折々の花を楽しめる。初冬を迎え、椿のつぼみが膨らみ、水仙の花も待ち遠しい今の時期。春を待つ小さな花々を探しながら、お庭を散策してみてほしい。

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初冬に咲く、ツワブキの花。

建物の中に入ると、左右にそれぞれ茶室が設けられている。この茶室は大佛氏が客人をもてなしたり、奥さまがお茶を教えていて茶会をされていた場所でもあるそう。

清潔感があり、木漏れ日が差し込む穏やかな空間だ。 

お庭を眺め、鳥のさえずりを聞きながらお茶を飲むのは、せわしない毎日の中での贅沢な時間。

「静かな時間を過ごすことが、ここしばらくなかった。ここに来てその大切さがわかりました」と、しみじみされるお客様もいるそう。

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雪ノ下抹茶¥1700。上生菓子とともに抹茶を楽しめるセット。

抹茶には、鎌倉の小さな名店、美鈴の上生菓子がセットになっている。主に予約販売で、気軽に手に入れることのできない美鈴の和菓子を求めて、足を運ぶ人も。 

ほかに、おさらぎブレンド珈琲とケーキのセットや、地ビールなどのメニューもあり。

この茶亭については、随筆にも綴られているのだとか。大佛作品を読んでから訪れると、さらに豊かな時間が過ごせそう。鎌倉の歴史や文学、また四季の美しさを味わいに、季節ごとに訪れてみては。

カフェ大佛茶廊(カフェおさらぎさろう)
神奈川県鎌倉市雪ノ下1-11-22
営)11:00〜16:30 L.O 16:00
休)月〜金
https://osaragijiro.jp/

text&photography: Mayumi Hasegawa

長谷川真弓

エディター兼ライター。鎌倉在住、3児の母。大学卒業後、出版社に入社。女性ファッション誌の編集に携わり、2011年に独立。現在はフリーランスとして雑誌やwebなどで活動中。

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