【犬山紙子】ペルシャネコのみつごちゃん
犬山紙子がいま思うこと 2020.01.24
文・犬山紙子
photo : KAMIKO INUYAMA
まずはこの写真を見て欲しい。
……「かわいい」「かわいすぎる」「ちいさないのち」「守る」……
この、ペルシャネコのみつごちゃんの破壊力たるや。
かわいすぎて深夜わけわからなくなり、10個注文してしまった。
こういう時は翌朝後悔するものだけど、それもなかった。友人に配ればみんなにも幸せが訪れて最高じゃんと思ったからである。手渡した友人はみんな喜んでくれたから、やはり買ってよかった。
photo : KAMIKO INUYAMA
もともとシルバニアファミリーは私の趣味である。
きっかけは姉で、姉が一人暮らしをしていた狭いアパートの扉に、子供の頃から持っていたシルバニアのうさぎの赤ちゃんをちょこんと乗せていたのだ。
わざわざ仙台から、この小さな友人を連れて来たんだろう。
東京で、社会で生きるしんどさを抱えた20代の姉。
せめて、少しでもホッとできるようにと、うさぎをちょんと置いた愛しい姉。
そのうち、私も姉と交代でその家に住むようになった。
私の二日酔いでゲロ吐いている姿も、孤独で死にそうになっている姿も、友達と桃鉄してる姿も、仕事をやっと貰えるようになってしゃかりきになっている姿も、仕事で悔しくてベッドを殴った姿も、うさぎは見守っていたのだ。
小さな家の守り神である。
photo : KAMIKO INUYAMA
エッセイストとして頑張り出した私は、嬉しいことも100倍、辛いことも100倍という状態になってしまった。どうしてももっとシルバニアファミリーが欲しくなり、中野ブロードウェイでシルバニアハウスと他の人形と家具と、他のメーカーの動物のフィギュアも買ったのだった。
そしてシルバニア帝国の神となり、世界をせっせと作ったのである。
シルバニアをいじっている間は私は女児で、心は平和だった。
それから10年近く経って、私は自分の心を守る術をそこそこ身につけた。でも、私にはまだペルシャネコのみつごちゃんが必要だし、ちょいちょい女児に戻って自分を甘やかしている。
友人にシルバニア好きやぬいぐるみ好きもいて、その話ができるのもとても嬉しい。
photo : KAMIKO INUYAMA
シール集めでも、香り付きリップでも、怪獣のフィギュアでも、魔法少女モノでも。どんな大人にもきっと何かしら女児に戻るための魔法のアイテムがある。心に女児スペースを空け忘れている人にも、ふと戻してくれる何かがあるんだと思う。
私にとってそれがシルバニアファミリーなんだろう。
photo : KAMIKO INUYAMA
ちなみに3歳の娘もシルバニアが大好きだけど、すぐ服を剥くし扱いがひどい。娘のペルシャネコのホワ毛には埃がつきまくっている。シルバニアガチ勢としては「うっそんなっそんな扱い……でも小さな子供にそう扱われるのもシルバニアの役目……!!!!ああっ私なら……ダメだ、自由にさせてあげないと」と心が忙しい。
娘に付き合って一緒に遊びはするが、私のシルバニアと娘のシルバニアは別物にしておこうとも思う。だってあれは私だけの世界だから。
イラストレーター、エッセイスト。1981年、大阪府生まれ。2011年『負け美女 ルックスが仇になる』(マガジンハウス刊)にてデビュー。
テレビのコメンテーターとしても活躍する。2017年に1月に長女を出産。