鎌倉、春の楽しみはタケノコ狩り。

２月はいちご狩りの話題だったけれど、今回もまた「狩り」の話。だって、春だもの。あちこちで暖かさにつられて、おいしいものがぴょこぴょこと顔を出している。食欲の秋というのが一般的だけれど、春もおなじく、いや、それ以上だと思う。鎌倉や湘南の海や山では（そして里でも）、春ならではの食べ物がつぎつぎと旬を迎えて、食べる方も忙しくなる。

あまり知られてないけれど、鎌倉の浜では貝も獲れる。友人たちと由比ヶ浜で潮干狩り。

収穫したハマグリやアサリ。翌晩、友人宅に集まって、みんなでボンゴレにして食べた。

---fadeinpager---

以前、暮らしていた鎌倉の家は、隣に大家さんの家があった。わたしの両親に近い年齢のご夫婦が暮らしており、時折お裾分けをくださった。なかでも、初めていただいた時に度肝を抜かれたのが、ビニール袋にどっさりと入ったワカメ。朝一で、逗子の小坪の漁師さんから買ってきたのよ、と奥さんは言う。

ほぼ１株まるごと。いわゆる果肉の薄いワカメ部分だけでなく、メカブも茎もついている。もちろんメカブも茎わかめも、スーパーで買ってきて食べたことは何度もある。けれど、ワカメを1本まるごと買う機会はなかった。

食べ方も教えてもらう。といっても、ごく簡単なのだが、それぞれの部位に切り分けて、メカブや茎は細かく刻むか、ねばついて大変なので手抜きで構わなければフードプロセッサーにかけるといいとのこと。なにより感動するのが、湯がいたときに、黒っぽかったワカメやメカブが、それはきれいな緑色に変わること。湯がきたてにポン酢などを垂らしていただく、そのシンプルなおいしさには、何度食べてもおどろく。新鮮さは、なによりのご馳走だ。

---fadeinpager---

ワカメが出回るころ、駅前の市場やスーパーで見かけるようになるのがタケノコだ。タケノコの煮物にワカメを添えるは、旬のタイミングが同じだから。と、当たり前のことに気づいたのも、恥ずかしながら鎌倉で暮らし始めてからだった。そのタケノコも大家さんから（大家さんも市内に住む友人からいただいたものだと言っていた）もらうことが、たまにあったのだけれど、コロナによる最初の緊急事態宣言が出た2020年の春のタケノコは、いつもと異なる入手方法になった。

インターフォンが鳴って出ていくと、大家さんがシャベルとバケツを手に持って立っていた。隣の家（うちの２軒隣）の庭のタケノコがちょうどいい具合だから、これを使ってお嬢さんと採ってらっしゃいよ、と。そういえば、庭に竹が鬱蒼と生えている家があったな、と思いつく。とはいえ、そんな誘いは初めてだったので、聞くと、長年住んでいた人が引っ越して空き家になっており、管理人（これも近所の人）から許可をもらったという。

2軒隣のお家の庭で掘った筍。細い竹なので、小ぶりの可愛らしい筍が採れた。

娘（当時１歳）が持つと、大きく見えるタケノコ。バケツいっぱいに採って、娘も誇らしそうだった。

---fadeinpager---

なにしろ外に出かけづらい春だったので、またとない機会だった。夫が掘り起こし、小さい娘が、タケノコの土を払う。そして、私が調理を担って、その晩は若竹煮にタケノコごはんと旬をたっぷり味わった。

タケノコのアク抜き中。このタケノコでなにを作ろうか、算段するこの時間が楽しい。

隣家でのタケノコ掘りはたった1年限定だった。新しい借主が現れて、その家は高級和食店へと姿を変えたのだ。幼子がいるので、簡単に足が運べないのが残念だ。それ以前に、ご近所の好で１日くらい庭に入らせてくれたらいいのに、なんて図々しく思っている。そうしたら、竹林もきれいに保てるのに。ぶつぶつ言いながら、新鮮なタケノコが出回る市場へ足を運ぶのだった。

暖かくなって、海で過ごす時間も長くなる。娘は砂だらけになるのを厭わない。