お茶の本場・京都で広がる、進化するお茶の楽しみ。

京都上ル下ル 2022.04.28

小長谷奈都子

鎌倉時代、高山寺に茶園が開かれて以来、茶の湯や煎茶など日本の茶文化を発展させてきた京都。いま街には、日本茶の魅力や奥深さにフォーカスし、店主それぞれのスタイルでもてなす場所が増えている。話題の3軒で多様なお茶の楽しみ方に触れつつ、憩いのひと時を。

モダンな茶室でいただく、月替わりの茶菓懐石。

立礼茶室「然美」

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ペアリングコースは月替わりで、ノンアルコールかアルコールを選べる。写真は卯月の茶菓懐石より、柚子や山葵が香るきんとん「萌黄」と、穂紫蘇を添えた抹茶のカクテル「花簪」。すベての和菓子とドリンクに雅な名前が付けられる。茶菓懐石¥5,500

祇園南側の風情ある路地に佇むT.Tは、デザイナーであり現代美術家でもある髙橋大雅が手がける総合芸術空間。1階はタイガ・タカハシのコレクションや彫刻作品が並び、2階が月替わりの茶菓懐石を出す立礼式の茶室。かみ添に特注した手摺りの和紙や鉄媒染した杉のテーブルなど黒を貴重とした静謐な空間で供されるのは、和菓子職人による季節感あふれる5種の和菓子に、お茶やカクテルを合わせたペアリングコース。和菓子は甘さ控えめな中に、塩気や苦味を効かせたりとコース全体で五味を感じられる構成。そこに京都の生産者から仕入れたシングルオリジンのお茶や、旬の野菜やハーブのアクセントを加えたお茶ベースのカクテルが寄り添う。空間や設え、演出など隅々まで髙橋の美意識が満ち、五感で楽しめる場所となっている。

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1階が呉服屋、2階がお茶屋だったという大正時代初期の町家を改装。かみ添に特注した抽象画のような壁紙は、千利休が手がけた茶室「待庵」の土壁をイメージ。店名の然美(さび)は「寂び」や「錆」からの転用で、経年美化というコンセプトから命名。

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お茶を淹れるスタッフの所作も美しく、茶室を舞台にしたライブパフォーマンスを見るかのよう。銀彩の茶碗は福岡の日月窯の福村龍太の作。ここで使われる器やカトラリーなどはすべてオリジナルでオーダー。

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1階にはイサム・ノグチ日本財団の理事長で石彫家の和泉正敏とともに造ったという髙橋の彫刻作品「無限門」や「無限円」を展示。ニューヨークと京都を拠点にするタイガ・タカハシのコレクションが並ぶほか、不定期で他のデザイナーや作家の企画展も。

立礼茶室「然美」
京都府京都市東山区祇園町南側570-120
tel:075-525-4020
営)13:00〜、16:00〜(ともに一斉スタート) 
※2日前までに要予約
不定休
www.rustsabi.com

 

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“幽玄”な日本茶の魅力をビル1棟から発信する。

ユウゲン

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つきたての餅に上品な甘さの白味噌だれ、無花果、胡桃、山椒という新鮮な組み合わせの「無花果と胡桃の炙り餅」に合わせたのは、京都・和束町産のかぶせ煎茶「さえみどり」。渋みがなく、濃厚な旨みと甘み、華やかな香りを楽しめる。セットで¥1,900

「日本茶は体によく、それ自体を楽しむ嗜好品であり、紡がれてきた歴史や文化がある、という魅力があります」と話す須藤惟行(ただゆき)。2018年に日本茶や抹茶ラテを気軽に楽しめるティースタンドとして立ち上げ、今年1月、より奥深い日本茶の空間を作りたいと移転。1階は生産地を訪れ厳選した日本茶と甘味を提供する茶房、2階は茶室を備え、金継ぎや草木染などのワークショップを行うサロン、3階は作家の器や道具を扱うギャラリーとなる。茶房のメニューには「甘味とお茶のセット」が並び、お茶は煎茶、炒りたてほうじ茶、紅茶から好きな品種を選ぶというスタイル。新茶の季節など多い時には20種類近くがリストアップされる。香りや味わいの変化を楽しみながら、二煎目、三煎目といただくうち、ゆったり寛いだ気持ちになれるはず。

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1階はタモの木が伸びるカウンター席の茶房。中央には釜で据えられ、釜で沸かしたお湯が茶杓で急須に注がれる。入口のオーガンジーのカーテンが外からの視界を遮り、外光をやさしく通す。店舗設計を手がけたのは若手建築家の菅野正太郎。

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「日本の伝統を身近に」をコンセプトに掲げ、異業界から日本茶専門店を開業した店主の須藤。客のペースを見図りながら、釜から急須にお湯を注ぎ、お茶を煎れてくれる。1階では京都の宇治茶を中心とした質の高い日本茶や道具も販売する。

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2階のサロンにはテーブル席の他、奥に炉を切った茶室を備える。金継ぎ、草木染、和紙といった和のワークショップを開催予定。

ユウゲン
京都府京都市中京区亀屋町146
tel: 075-708-7770
営)12:00〜18:00(月〜日)、11:00〜19:00(祝)
不定休
※茶房は予約可能
www.yugen-kyoto.com

 

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鴨川の畔で、日本茶や中国茶をボーダレスに楽しむ。

茶室/茶藝室 池半

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2階に上がると、鴨川の景色に思わず歓声が。ぐるりと部屋を取り囲むように貼られた和紙は黒谷の和紙職人ハタノワタルによるもの。小嶋が生ける季節の草花にも癒やされる。

八坂半、鴨半という一棟貸しの町家宿が宿泊客をもてなすための空間としてスタート。店主は、先祖が愛知・尾張瀬戸の窯元で茶道具を作っていたという小嶋万太郎と、茶処・静岡出身で台湾に住んで茶藝館で働いた経験もある妻の石橋慧(けい)。そんな背景から、日本茶だけでなく台湾茶や中国茶も扱い、店名に茶室/茶藝室と冠する。茶壺や茶海、茶杯を使って煎を重ねていく工夫茶のスタイルで、無化学肥料、無農薬の厳選された茶葉がもてなされる。2度目からはお茶単品でも注文できるが、最初は3種のお茶と2種のお菓子が付く「茶席コース」を。まず2種類のお茶を仄暗い茶室のような空間でいただき、3種目は一転、2階の明るく開放的な空間で。鴨川の水面や河原の野花を眺めながら、ゆるりとお茶をいただける贅沢な時間を過ごせる。

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それぞれ10種前後揃う日本茶と台湾茶・中国茶は茶農家を訪れ、厳選したもの。土地の自然が色濃く現れる希少な在来種も。お茶の種類や味わいの特徴など、丁寧なレクチャーの後、3種類を選ぶ。

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1階では小嶋か石橋が手なれた所作でお茶を淹れてくれる。選んだ茶葉に合わせて、道具の取り合わせも変えているそう。小嶋が古道具店で出合った家具や先祖伝来の骨董が空間に調和する。

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お菓子のひとつとして登場した自家製の台湾の豆花(とうふぁ)。ほかに自家製の黒胡麻ペーストが入った団子、湯圓(たんゆえん)や、ぜんざい、季節の水菓子など、時々で変わる。「茶席のコース」¥5,000

茶室/茶藝室 池半
京都府京都市下京区都市町143-11
TEL:非公開
営)10:00〜16:00
休)水〜金
※90分間制で1組1〜4名までの貸切、ホームページから要予約
https://ikehan.jp
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

photography: Sadaho Naito, editing: Natsuko Kongayaya

小長谷奈都子

フィガロ編集部で約8年働いた後、結婚を機に京都へ移住。「フィガロジャポン」「ペン」の本誌やウェブサイトを中心に、フリーランスの編集・ライターとして活動中。夫の料理屋を手伝って、時々女将。1男2女の3児の母。出身は長崎県の壱岐の島。
連載「京都上ル下ル」は京都の楽しい、美味しいを大切な友人に紹介するような気持ちで制作。

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