賞レースを闘う、男たちの物語もスゴイ!

こんにちは、編集KIMです。もう米国アカデミー賞授賞式から1ケ月が経とうとしています……。第92回米国アカデミー賞の主要部門賞のノミネート作品群、観られた作品が多かったからたまたま思うだけかもしれませんが、エンタメ性が高く、俳優陣の演技がすごく、エネルギッシュな映画が多かった、と個人的に感じました。

小さな試写室ではなく、劇場で観て本当によかった!と思ったのは、主要部門ではノミネートにとどまりましたが、編集賞、音響編集賞を受賞した『フォードvsフェラーリ』です。

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ちょっとレトロな、ミッドセンチュリーのムードも魅力。

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1966年ル・マンの耐久レースにて、アメリカの商業主義の象徴のような存在とされていたフォード社が、カースポーツを芸術の域に引き上げた絶対王者フェラーリに立ち向かう、という実話の映画化。この時代のアメリカでも、若者の趣味嗜好の変遷は、車メーカーの間で利益キープの重要なポイントととらえられていました。大衆車のシンボル、フォードを、「メカニックのアート」として表現することを提唱したのが、かの有名なアイアコッカだった、な~んてことも、車産業に疎い私は何にも知りませんでした。この作品を観て、「ほほ~~~!」と思うばかり。
クリスチャン・ベイルが主演男優賞にノミネートされていないのですよね、本作にて。もしも、ライバルとなった俳優たちがもっと地味だったら……いまは亡き実在の英国人カーレーサー、ケン・マイルズ役クリスチャン・ベイルにチャンスがあったはず! 
そっくりなのです、ケン・マイルズ(の写真)に。悩ましくて静かで青い炎が燃えているような役柄を演じることが多いクリスチャン・ベイルですが、このマイルズ役は、職人のおっさん。ラフで、怒りっぽくて、そして愛情深くて不器用な男の役です。
劇場のスクリーンいっぱいにカーレースシーンが広がり、フォード、フェラーリ、それぞれの車が出す重低音の違いも、はっきりわかります。その「音」によって、すごく興奮させられます。音響編集賞を受賞しましたが、音が、男同士のドラマを盛り上げてくれた非常に重要な要素でした。アカデミー賞の華やかな賞はもちろん作品賞、監督賞、俳優たちの賞だと思います。でも観客の心を動かす大切なサポート役は、実はこういう細部にこだわった編集や音響であることを、しみじみ感じさせてくれる素晴らしさです。

そして、私はジェームズ・マンゴールド監督の映画が大好きで、過去に何度も『ナイト&デイ』(2010年)についてブログで書くくらいのファンです。


アカデミー賞のレッドカーペットでしょうか、ティモシー・シャラメとぱちり。こういうお茶目なところも好き!マンゴールド監督。監督は乗り物オタクだそうで、『X-MEN』シリーズから派生した『ウルヴァリン:SAMURAI』(13年)では、日本の新幹線上で闘うシーンがありました。『ナイト&デイ』でも、飛行機内での殴り合いのシーンが冒頭でありますし、オリエント急行のキッチンカーでのアクションも見もの。『フォードvsフェラーリ』は、実際のレースシーンもすごいですが、レースに耐えうる車を作るためのテスト走行における男たちの熱気にやられます!

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アンジェリーナ・ジョリーを有名にした『17歳のカルテ』(1999年)などもマンゴールド監督作で、昨今はアクションが通好みな大作を作ることも多いけれど、人間の心の機微を描くことに長けた映画作家であることは間違いありません。マンゴールド監督が描く女性像が私はとても好きです。『フォードvsフェラーリ』では、ケン・マイルズの妻モリー(カトリーナ・バルフ)の描き方が、洒脱なのにリアリティがあって素晴らしかった。夫の仕事が好きで、自らも車を愛し、気が強くてユーモラス。監督は、女性を崇拝したり特別視するような描き方をしない。「女」である前に「人間」である、という視点を大事にした、マンゴールド監督の女性を描くアティチュードにシンパシーを覚えます。恋人同士や夫婦を、「バディ」として表現してくれます。KIMとしては、マンゴールド監督の本作をオススメしたいいちばんの理由はここかもしれません……カーアクションもめちゃくちゃいいですけどね!

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本作は、女性客に向けて宣伝するのが難しかっただろうなあ、と予想します。でも女性の描き方も優れた作品ですので、ぜひご覧ください。

『フォードvsフェラーリ』
●監督・脚本/ジェームズ・マンゴールド
●出演/マット・デイモン、クリスチャン・ベイル、ジョン・バーンサル、カトリーナ・バルフ
●2019年、アメリカ映画
●153分
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
●公開中
©2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari

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アムステルダムで『ジョーカー』観ました。

『ジョーカー』と『パラサイト』は2019年のベストかも!と、フィガロで「活動寫眞館」を連載中の齊藤工さんも言ってました。私は10月にアムステルダムにふらっと一人旅した時に観ました。その時、劇場で笑いが起こり、英語で観ているので、台詞を理解しきれなかった私はさっぱり……。再度、日比谷の映画館で観た際に、どうしてオランダの人々が笑っていたのかは掴めませんでした……←余談。

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最終手段に打って出ようとする直前のアーサーが踊るシーン。NYのブロンクスにあるこの階段は、いまや観光名所になってしまっているようです。

『フォードvsフェラーリ』のクリスチャン・ベイルがたとえ主演男優賞にノミネートされていたとしても、そしてもちろんディカプリオやアダム・ドライバー、ジョナサン・プライスに、アントニオ・バンデラスというノミネーツがいても、今回は『ジョーカー』のホアキン・フェニックス以外はありえない!と誰もが思っていたことでしょう。いままで数々の映画を観てきましたが、こんなにひとりの役者の力が、作品全体を強く支配してしまう作品にはなかなか出会えません。
ジョーカー誕生前夜のアーサー・フレックが辿る世の中に見捨てられた感は、「いまの時代」のダークな側面そのものを映しているかのよう。映画は社会の鏡の役割を果たすことを、研ぎ澄まされた演技と、ブルーがかった詩的な映像と、その中にぽっかり浮かび上がるようなジョーカーの極彩色の衣装が雄弁に語ります。

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病を患っても道化の仕事をがんばりながら、コメディアンとして大成することを夢見るアーサー。だが、社会福祉にも、同僚にも、憧れのスターコメディアンにも裏切られ、挙句の果てには母親からも……? アーサーの妄想の世界と現実が交錯し、ラストのジョーカー誕生に向かって疾走する。現代のダークファンタジー。

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決してバランスのいい映画ではありません。とてつもなく偏り、時にダークサイドに観客を誘ってしまうオソロシイ作品でもあるのですが――だって悪人の、悪人に落ちざるを得ない人の弱さから生まれるバイオレンスを、奥深く美しく描いてしまっているので――、でも、観ておかないと損してしまいます!

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米国アカデミー賞授賞式の舞台で長いスピーチを披露するホアキン・フェニックス。
©Getty Images

ホアキン・フェニックスの受賞時のスピーチはこんな感じの内容でした。
「自分が他のノミネート俳優のみんなよりも優れているとは少しも思っていない。映画とは最高の表現方法であり、声なきもののために声を上げる芸術である。ときとして、私たちは男女平等とか、動物の権利とか、正義のための闘い、先住民の権利とか、そういったことに対してさまざまなアクションを起こす。人類による多大な搾取を許してはいけない。自然界と切り離されていると思うのは、人間のエゴです。自然界の資源も枯渇していて、自然から奪っているなら、我々人間のほうこそ、その代わりに何かを犠牲にしないといけないと思う。でも、人類は発明力にあふれ、思いやりによって、すべての生命にとっての良き行動がとれるはず。私も利己主義だったけれど、そして仕事しにくい人間だったけれど、今回2度目のチャンスをもらいました、ありがとう。我々は協力しあえる、それが人類の最高の要素です。17歳の時に、兄が書いた言葉は――愛情と平和の心をもって人を助けよう――でした」
授賞式で傍らに座って、あたたかい眼差しでホアキンを見ていたのは、パートナーのルーニー・マーラ。彼女は美しいですが、不器用そうな俳優です。そこがまた魅力。ふたり揃って、一筋縄ではいかない役柄を演じ切ってしまう力量があって、映画界の演技派カップルとして歴史に名が残りそうですよね。

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『ジョーカー』
●監督・共同脚本・製作/トッド・フィリップス
●出演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツほか
●2019年、アメリカ映画
●本編122分
●Blu-ray&DVDセット(2枚組・ポストカード付き) ¥4,980 発売・販売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved
wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie

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昔むかし、ハリウッドで……タランティーノの創造と、ブラピ&レオ。

ブラピ、ジョニデ(落ちぶれちゃったけど…‥)、レオさま、この中で誰が好き? なんて会話をよくしたものです。KIMが好きなのはレオナルド・ディカプリオ。それも若い頃の美少年な彼ではなく、大人になってでっぷりしたディカプーが好きです。ちょっとズッこけたムードもいい! コメディセンスがあると思います。それに比べてブラッド・ピットは、あんまりコメディセンスを感じません。演技よりルックスにどうしても目が行ってしまうイケメン中のイケメン、それも甘いほうの。
でもやっと取れましたね! アカデミー助演男優賞おめでとうございます!

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「クエンティン・タランティーノ、オリジナルなユニークな監督です、あなたがいなかったら映画界は違うものになったでしょう。人の、いちばんいいところを引き出す監督です、最悪を想定しながらね。レオ、君の後ろを歩いていて本当に幸せでした。そして、スタッフにも感謝です。愛を送りましょう、スタントコーディネーター、スタントスタッフのみなさんに拍手を贈りましょう! 私は後ろを振り返るタイプの人間ではないですが、いろいろな人にいろいろなチャンスをもらってここにいます。まさにワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド、そのまんまです」というスピーチでした。©Getty Images

これは、1969年夏に起きたシャロン・テート事件を題材に、もしもあの事件が‥‥こうなっていたら?というタランティーノの想像から生まれた事実とは異なるラストが準備された作品。観終えて感じたのは、人の創造ってどこまでも広がる!という高揚感でした。当時、大注目だったポーランド人映画監督ロマン・ポランスキーの妻で、妊娠中だった女優シャロン・テートは、ヒッピー集団の女性たちに殺害されてしまいます。「妊娠した女性」を、個人的な関わりも持たない=なんの恨みごともない「女性」が殺してしまった、というニュースは、世界的に衝撃を与えたそうです。

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ピークが過ぎたTVスターのリック役にレオナルド・ディカプリオ、リックのスタントマン、クリフ役にブラッド・ピット。

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当時アメリカで武術を教えていたブルース・リーも登場、という設定。タランティーノらしい~。そして大好きなブルース・リーに言及してくれて、KIMうれしい~。

狂信的なグループの牙城に乗り込んだり、アブナイ橋を渡りながら、いつも悠々泰然としているのがクリフ役ブラッド・ピット。常に周りが見えていて、欲がなく、友情にしがみつかないのに友情に厚く、腕っぷしが強い。まさに理想的な男。いっぽうレオナルド・ディカプリオ演じるリックは、自分のことしか見えていない。落ちぶれる自分、世間から忘れられていく俳優、というレッテルにも怯えます。このキャスティングは大成功で、仕掛人のタランティーノ監督含め、男らしい味わいのある映画です。男の夢と、器の小ささと大きさ。その周りに漂うように在る女たち……。狂信的ヒッピーと、うたかたのパーティに興じるハリウッドセレブは、コントラストを成しているようでいて、実は同じ線上にいるように映る。こんなところに、タランティーノの人間観察の結論が現れている気もしました。

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レイト60s~70sのファッションが大好きだったのに、この事件のことを調べたりしているうちになんだか嫌いになりそうな自分がいて、映画のメッセージってこわいし、強大だなあと思いました。本当に不気味なんですよ、このランチと呼ばれる殺風景なヒッピーのたまり場。

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シャロン・テートを演じるのは、マーゴット・ロビー。「持ってる」女優ですよね、運も実力も。

この骨太感、大胆さは、やっぱりタランティーノならでは、です。オタクで凝り性で、枠を飛び越えたクリエイションの煌めきに満ちた映画作家と、常連ともいえるチーム的な俳優陣のタッグっていいですね!

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
●監督・脚本・製作/クエンティン・タランティーノ
●出演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビーほか
●2019年、アメリカ映画
●本編161分
●Blu-ray&DVDセット ¥5,217 販売・発売:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
©2019 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.
https://bd-dvd.sonypictures.jp/onceuponatimeinhollywood/index.html

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